→ top

  

農村の暮らし


レミニア聯合共和國は農業國家です。都會生活者も晩年には故郷の田舎に戻ってきて静かに暮すのが理想です。農村はどのような仕組みで出来ているのでしょうか。

農園 bien, farm
  →農夫 laborist, labourer
  →小作人 farmant, tenant farmer
  →農場主 bienhavant, farmer
  →地主 sinjor, squire
  →領主 fewdestr, lord
  →面積・人口
行政 administrad, administration
  →村會 deputitar de vilagh, village assembly
       →地方制度(準備中)
  →村役場 oficey de vilagh, village office
  →治安判事 jughist de ord publik, justice of the peace
  →巡査駐在所 stacio de polic, police station
       →警察制度 shistem de polic, police system
       →治罪制度 shistem de proces kriminal, criminal process
  →郵便局 oficey de posht, post office
  →驛逓 stacio de trafik, traffic station
  →鐡道驛 stacio de fervoy, railway station
  →教會 preghey, church
       →國教會制度(準備中)shistem de landeklezi, land church system
  →小學校 lerney elementa, elementary school
  →消防團 fayr gardar, fire guards
  →護郷軍 heym arme, territorial regiments
  →産業組合 coorepation, kooperativ
供用地の人々
  →職人 artizan, artisan
  →商人 komercist, merchant
  →専門職 specialist, professionals
  →隠退者 ermit, retired poeple
voyaghul
  →旅人 voyaghul, travelers
家事使用人 servantar, servants
  →女衆 virin, women
  →男衆 vir, men
  →高等使用人 gast, guests
出稼人・都會に出た人々
  →出稼人 laborist sezona, seasonal labourer
  →都會に出た人々 laborist al urb, city workers
食生活

→ top


★★農園 bien, farm★★


【農夫】 laborist, labourer
  農家に雇われて、畑仕事をします。地方によっては作男とも云います。牧場では「牧夫」「牧童」と呼ばれています。
  農家の子供は男女とも小學校を了えると、修業のために他の農家に住込みで働くのが普通です。篤農家には大勢の住込み希望者がきます。子供が大きくなると、やがて實家に戻ってきて家を継ぎます。次三男は家督を相續しないので、一生涯を實家や他家の農夫で送る人もいます。けれど器量の優れた次三男には他家の養子の口がかかります。あるいは邊境の開拓地に出かけていって小作人に應募する手もあります。これは開墾が上手くいかず餓死寸前になったり、先住民や野盗に襲われたり、たいへん危險が多く、餘りお勧めできません。鐵道の線路工夫、道路工夫、馬丁などに出て日當を稼ぐ者もあります。都會に出て工場で働くのは、最近の流行ですが、勞働環境が劣悪なのですぐに病氣になってしまう危險があります。みな不景氣になると村に戻ってきて、臨時農夫になります。兵隊にとられた次三男には軍隊の現役下士や護郷軍の兵士に志願する途もあって、こちらはある程度の出世もできるのでわりかし人氣です。

【臨時農夫】 laborist tempora, temporary labourer
  農場主は、小作地以外に自分の菜園や畑を持って自作しているので、澤山の農夫を雇います。
  地元の人間や、よそから来た流れ者が、臨時に雇われて働きます。

【出稼農夫】 laborist sezona, seasonal labourer
  特産物の収穫季がくると、人手が足りなくなるので、他の暇な地方から出稼人が男女とり混ぜて大勢やって来ます。外地からも来ます。人口が急膨張して、お祭り騒ぎになります。  → top

【小作人】 farmant, tenant farmer
  農場主に小作料を前拂して、畑を耕します。
  作物を自分で産業組合に納めて、公定の代金を受取ります。その中から次の年の小作料を農場主に支拂います。資金のない人が新しく小作人を始める時は、借金して小作料をつくります。最初は、なかなか収穫がうまくいかなくて、借金が返せず、利子の返濟だけであっぷあっぷします。一家中で内職したり、牛や山羊を飼ったりして副収入を工夫します。
  腕の良い小作人は高く賈れる良い作物を多く収穫するので、収入が良く貯金が増えます。小さな農場の株を買って農場主になる可能性も大です。なかなか農場主の空きが出ないので、それを待ちきれない者は邊境の開拓地に出ていきます。
  運や腕が悪かったりすると、たいへん困ります。天候不順や病蟲害で作物が育たなかった時には、借金をしなければ次の年に小作契約を結べません。また景氣が悪くて、作物が安くしか賈れない時には、たいへん貧乏になります。「水呑み百姓」となってしまいます。パンもなく、雑草を食べて、文字通り水を呑んで暮すのです。出稼ぎに行ったり、娘を身賈りしたり、都會に出て工場の臨時職工になったり、一家離散して浮浪者になったりします。

小作人
  家族、居候
    奉公人(少年農夫、子守少女)
    出稼農夫(臨時、農繁期のみ)

自慢の牛
農夫

牛飼

  古代より戰争の捕虜として他領の住民をさらってきて、大規模な荘園の農奴として使役する慣わしでしたが、中世に至り小規模の農場經營が主となるに從い、能率の劣る奴隷勞働は廃れて、小作人が耕作を擔うようになりました。小作人は農奴から解放された人々が主でしたが、勞働力の稀薄な地方では、農場主が音頭をとって他國から募集してきたり、先住民を採用したりしました。あまり貧弱な土地では小作人が一家で逃げだすことも多く、過酷な經營のもとでは一揆が起きて、地主が調停をしなければなりませんでした。地主や領主が農場主の肩を持てば、ともすれば大規模な農民叛亂に發展してしまう惧れがあり、そのため領地の統治は入念を極めなければなりませんでした。農場主や地主は四季の祭事はもとより、折に触れて宴會を催し、農夫小作人とその家族に大盤振舞をしました。飢饉になりそうな時は、自分の穀倉からこのような時に備えて貯めておいた食糧を配給しました。病人・孤児・寡婦・老人・うまく働けない人には食事を届け、衣服を與えました。冠婚葬祭には祝儀や見舞を欠かさず、事細かく世話を焼いたので、親子代々同じ農場の土地を自分のものの如く懇切に耕す家族が多く、互いに援け合って和やかな村の暮しを築きあげてきました。もともと小作人の流動性は割りと高く、税金が高いとすぐ他領に大勢で逃散してしまうので、その扱いに苦心した挙句、このような平和状態を保障することに腐心するのが領主以下、地主、農場主の責任となって現在に至っています。すなわち自領の村民を苛めたり、戰争ばかりして物入りの多い領主は一揆(農民叛亂)や逃散(逃亡)により自滅し、淘汰されてしまったのです。  → top

【農場主】 bienhavant, farmer
  地主から土地を借りて農場を經營します。
  「小作人」が前拂する「小作料」が基本的な収入源ですが、農場主が協同して「産業組合」を運營し、小作人から公定價格で作物を買取り、附属工場で出荷に都合の良いように加工・梱包します。「産業組合」は仲買商人と値段を交渉して作物を賈却し、利益を得ます。それは出資者たる農場主に出資額に應じて分配されます。利益の一定割合が小作人にもその納めた収穫量に應じて分配されます。景氣によって値段は變動するので、大儲けをする年も有れば、損をする時もあります。損益が出た時は農場主・小作人とも無配となり、赤字分は農場主が補填することになります。小作人の腕の良し悪しで、収穫に大きな差が出ます。今年は何をどう作るか、小作人をどう上手く使うかが、農場主の腕の見せ所です。
  成功した農場主は、お金持ちになって、地主から土地を借り増して大農場主になり、大農場主は更に有利な投資をして富豪の仲間入をします。田舎の工場の重役はたいてい大農場主が兼ねています。失敗した農場主は、借金を踏み倒し、都會に夜逃げしてしまいます。このように農場主は浮沈の激しい職業ですが、お金を貯めた小作人は農場主になるのが夢です。

小農場の例:

農場主
  家族
    奉公人(女中、下女、子供、馬丁)
  農夫長
    常雇農夫5
    臨時農夫5
    出稼農夫5内外(農繁期のみ)
  小作人5

  古代では貴族の大規模な荘園で農奴が田畑を耕していましたが、中世になると小規模な農場に分割されて、借地農が經營を請負うようになりました。帝國軍用道路に結ばれた舊大荘園を拠點として、開拓者が自分の土地を切り開き、今の農地のもとを作りました。その頃の大陸は大部分を森林と荒野に覆われた未開の地でした。人口稀薄、農業も自然採集に近い粗放なもので、肥料も無く、農具も貧弱で、常に明日の食糧を心配しなければなりませんでした。少しの氣象變動で飢饉に陥りやすく、近隣との争いごとも多く、何事も呪術に頼って先の判断をする暮しでした。休耕地を設ける三圃式農法や牛馬に引かせる輪犁が普及すると暮しに餘裕が出てきました。特産品で富裕になる村もでて大陸は繁榮に向いましたが、人口は疫病や戰争のため増減が激しく、今のように人口過剰氣味になったのは、つい最近のことです。
  農場主は農業技術の高等知識を持ち、經營にも明るく、進取の氣性に富み、上質の農産物の生産を保障して、これをうまく商品に仕立てて市場に流通させ現金収入を得る専門職業で、村の地主にも小作人にも現金収入を齎す重要な役割を擔っています。近世から頭角を現してきて、品種改良、農法の革新、特産品の開發、農場經營の効率化、協同組合組織の普及など、たくさんの創意工夫をして農村の興隆に尽力、農業近代化の擔い手となって今日に至っています。  → top

【地主】 sinjor, squire
  領主の家来が、土地を永久貸與されて定住し農業に從事したのが「地主」です。土地は昔から「村」vilagh, village と呼ばれていましたが、地方行政制度上は「小區」(大字)vilaghet, ward と呼ばれ、「小區」が集合して現在ある行政上の「村」village となっています。小區の名前は概ね地主の姓と一致します。そのため「Daniel de Legomo」と名乗る人は「レゴーモ村地主のダニエル氏」と分かります。
  「農場主」が支拂う借地代が主な収入源です。高い小作料と高い地代のため、小作人と農場主の収入は、その半分が地主屋敷の金庫に入ってしまうのですが、別に不満の聲も聞こえてこず、暴動も起きないのは、地主が小區の農民の面倒を良く見るからです。不作で飢饉になりそうな時は地主屋敷の金庫から食費を支給し、火災や病氣の時には見舞金が、孤児や寡婦、身寄の無い老人には年金を贈ります。よく勉強の出来る子供には奨學金を出して上級學校に入れます。餓える人や貧者、可哀そうな老人・子供、逃げ出す人が出ないように地主はいろいろ苦心を拂います。
  地主は村會議員として村の公共事業にも熱心です。村道を整備し、橋を架け、用水路を開き、耕地を整理して、収穫が上がるように努力します。費用は殆ど地主と大農場主が出します。

地主屋敷の例:

地主
  家族
    女中頭
      掃除女中
        掃除女・洗濯女
      食堂女中
       皿洗・雑役
    小間使
    保姆または乳母
        子守
    家庭教師
    差配
      書記補
        給仕
    執事
      從僕
        使走
      馭者
        馬丁・厩夫
      門番
        夜番
    庭師
      助手
        雑夫
    料理人
      下拵
        皿洗、竈番
    麺麭焼職人
            徒弟

↓中世の武士(地主の祖先)

↓左より旗手、騎士、從士(大抵こういう徒黨を組んでいた)

↓なにやら策戰中

  地主は昔からの武士で、農業の傍ら村を外敵から守り、また領主の家来として城館に他の地主と交代で勤務しました。今も屋敷の廣間には先祖傳来の鎧兜・鎖帷子が飾られており、壁には槍・劔・弓矢・火縄銃・紋章入の盾が掛っています。もともと武士の家系が古代から續いていたのではなく、中世初め頃には様々な生業に從事しており、高価な武装を自費で整えられるお金と禮儀作法の心得があれば、誰でも劔士を名乗れました。木製の劒しか持っていなかった徒歩の少年が旅に出て修業し、龍や魔女を退治して領主のお姫様をお嫁さんにもらい騎士となる物語が流行しました。さて劒士のうちで最も多かったのが古代帝國總督府の軍團を退役した軍人です。退職金の代わりに土地を貰って定住し、自衛のため武装した獨立自營農でした。小さな砦兼用の館(やかた)に住み、自分の土地に開拓農民を住まわせ、地代を取立てて暮していました。幼少時から武藝の稽古に専念し、讀書き禮儀作法に習熟しなければなりませんでしたから、餘り農作業に参加せず、そのうち差配人を雇って全く任せ切りとなってしまいました。傍ら領主が建てた大きな城塞の守備勤務に交代で就き、團結して外敵から郷土を防衛しました。戰争に際しては、領主の軍隊を構成し奮戰しました。戰争と云っても近隣の村を襲撃して田畑や城塞を占領し、相手方の領主や家来を生捕って身代金を取るなど、山賊まがいの事(私闘)を互いに飽きもせずに繰返していたのですが、たまには異教徒や叛徒の征伐という名目の遠征軍に加わり金銀財宝など戰利品を持ち歸る事もありました。武勲をたて征服地に新領主として定住する者もでました。かと思えば自分の土地を通る餘所者から法外な通行料を取立て、これはと見込んだ騎士や高貴な身分の人々を生捕って身代金を請求する辻強盗のような劔士も珍しくありませんでした。
  劔士は先住民や異教徒の弓矢を避けるために段々と鐵の鎧や兜で重武装し、とうとう装備の重さのせいで走るのも儘ならない身となってしまいました。そのため乗馬して移動するようになり、乗馬のまま闘う例が多くなったので騎士 kavalir(一部地方では raydist)と稱されるようになり、從騎士(見習騎士)akompanant を從え、槍持ち lanctenant、馬丁 chevalservist など雑兵 servant を率いました。乗馬を整えられない劒士は、そのまま徒歩兵でしたが、富裕な騎士の臣下となり乗馬を借りて准騎士となることができました。劔に槍、鎧の兜鎧に盾と乗馬(替馬5頭程度を含む)を持つには、農業技術の低かった當時で 1平方粁米(100町歩)の農場が必要とされており、ある程度の資金を持たないと騎士の暮しを維持できませんでした。多額の持参金や年金を齎す奥さんを持つ幸運に恵まれなかった貧乏な騎士や劔士は痩せた土地の丸太造の小屋に家畜と一緒に住んでおり、物見櫓を兼ねた穀倉の周囲を木柵や石垣で囲んであるのでそれが居城であるとやっと分るのでした。
  地主の子弟は近隣や親戚の騎士の家に小姓 pagh として住込み、劍術・馬術、禮儀作法を習得し、それが巧くなると放浪の騎士 kavalir tramigrad として武者修行に出るのが慣わしでした。それはあちこちで戰いを挑んでくる劔士・騎士を退けながら、捕われた人質を解放したり、巡禮や隊商の護衛に雇われて報酬を受取ったり、城館の用心棒となって戰争に加わったりして、軍資金を貯め込み、邊境に自分の城を持つ機會を覗う旅でもありました。殊に東方帝國の侵入阻止戰争においては王侯貴族と親しく戰旅を共にし、新たに臣從契約を結ぶ者が多く、凱旋後は富裕な諸侯の城館に大勢の劔士・騎士が出入りするようになり、騎士道盛んな宮廷文化が華開きました。土地持ちではない騎士は領主の家士となり、城の警備や砦の守備に任じて給料を貰いました。門番・槍兵・弓兵などは百姓の次三男や浮浪者、外國人を雇いました。その中から武功を認められて劒士となり、遂には騎士となる者もありました。
  信心の篤い騎士は俗世を離れて修道士會の騎士團に入り、活躍しました。騎士道精神に則り傷病者や婦女子を救護し、巡禮路を守備し、護衛をかって出て、大いに感謝されました。騎士團は國境を越えて管區と支部を持ち、銀行業や旅行代理業も營み富裕でしたが、團員は農園に囲まれた城館に大勢で住み込んで祈祷と武技修練に励み、教會の日課に從って規則正しい質素な生活を送っていました。異教徒の討伐には常に先頭に立ち、とりわけ東方帝國の侵入を阻止するに大きな役割を果たしました。しかし實戰の經驗が乏しいため損害が大きく、征途の終りにまで生き残る者は數える程しかいませんでした。
  これとは別に騎士團には國王が設立する俗人編成のものがあり、それは外征用の大規模な臨時編成の傭兵軍隊であったり、新領土開拓に從事するものであったりしました。後者には武者修行の劔士や放浪騎士が大勢馳せ参じ、新しく一家を成そうと奮戰努力しました。殊に家督を継がない次三男坊は親から年金を貰って黴臭い修道士會で倹しく暮らすのが厭ならば自分で新天地を見つける必要があったので、邊境にある開拓騎士團の士氣は高く、常に戰争状態にあるにも拘らず續々と新しい村落が生まれていきました。先住民や異教徒の軍隊と戰いながら、辛抱強く土地を守ったので、現在までその武勇の傳統が色濃く残っており、レミニア軍の性格に大きな影響を與えています。武者修業中の騎士は若武者(yunkar)と云ったので、いまでも當時邊境地帯であった地方の領主・地主の階層はそう呼ばれています。
  國王が大規模な軍隊を臨時編成する時には、自國の騎士・劔士・農民だけでは員數が到底足りず、傭兵隊を大勢、外國から招聘しました。殊に東方帝國との長期戰争に際しては、外國人傭兵が多數レミニアに押し寄せてきて、戰争が終っても解散せず、そのまま居ついて國王の臣下となってしまう例が多く、深南部の獨逸人騎士團、北西部の愛蘭人騎士團、北部の佛蘭西系騎士團が有名です。おかげで、その地方の地名は悉く獨逸語、英語綴となってしまったほどです。
  時代がさがると、騎士團員は修道士會系の大勢力を除き、ほとんど解散してしまいます。その頃勢力を伸ばしていた國王は自ら王立騎士團を組織して、その團員には貴族の称號を惜しげもなく與え、軆裁の良い臣下團に作りあげてしまいました。もともと外國人傭兵や土豪の寄集めだった臣下どもは徒黨を組むのも早ければ、簡單に解散してまうのも早く、お城勤めに励む忠臣に變身するのは容易いことだったのです。  → top

【領主】 fewdestr, lord
  村は領主が領有しています。領主は、家来の地主と共に荒野を開拓し、外敵から村を守ってきました。村の中心に城館を築き、武術に優れた騎士の頭領でした。このような領主が合同して、土地領有権を互いに保証する政治機構が、「レミニア聯合共和國」です。
《供用地》ter komun
  領地を地主に貸出し、餘った土地は自分の農地として經營し、さらに交通の要地を「供用地」として村民に共同で使用させます。たいていは、商店や市場の集まる商業區域となっています。

供用地の廣場
廣場

また農場以外の林野も「供用地」として領主が管理しており、森林・荒野・河川湖沼などでの狩獵・放牧・用水・伐採は村民が平等に使用権を行使できるように取計らい、また部外者がみだりに密獵・盗伐などしないよう取締ります。これには縣警察部は關與しないので、領主は護郷軍と契約して、森番・森林監守などの名前で小規模な(分隊から小隊程度の)私設警察を組織し、常駐警備をさせます。
《臣從契約》
  領主は稱号のある貴族と稱号の無い准貴族に分かれています。領主は地方の上級有力貴族に臣從して、その保護を受けます。有力貴族は、そうした臣下から贈られた金品を貯めておいて、城塞と傳統ある私兵隊(護郷軍)を維持し、臣下のための共同利用施設を運營します。例えば、領主地主子弟のための高等學院運營や、教會堂への寄進、慈善寄附などです。

《領主家の例》

爵位持ち領主(男爵以上)は本邸(領地)の他に、別邸(首府)と別荘を有し、それぞれに執事、女中頭、厩番等を置く。主人や家族の移動には友人、御話相手、家庭教師、小間使、料理人、麺麭焼番、酒造番等必要な人數を引連れる。 領主
  家族
  友人
  御話相手
  家庭教師
 司書
 學藝員
 家令
    差配人(經理、農事、供用地)
      書記補
        給仕
    女中頭
     附女中
      掃除女中
        掃除女
     洗濯女中
       洗濯女
      食堂女中
    小間使
    保姆または乳母
     附女中
        子守
    執事
       雑夫
      從僕
        使走
      門番
        夜番
       番人
    庭師
       雑夫
      植木職人
        徒弟
    厩番
       雑夫
      馭者
        馬丁・厩夫
      自働車運轉手
        運轉助手・整備工
    料理人
       雑夫
      下拵
        皿洗、竈番
    麺麭焼番
       雑夫
      麺麭焼職人2
        徒弟
     製菓職人
       徒弟
    酒蔵番
       雑夫
   獵番
       雑夫
     犬飼
     森番

↓古代から中世にかけての城(木造で丘の上にあり、堀を巡らせてあった)

  中世の領主 felord, lord はその出自を古代王朝の貴族・富裕商人・軍人に辿ることができます。なかには王朝開闢以前からの家系圖を持つ由緒ある一族もあります。古代文明華やかれし頃、北の帝國からやってきて風光明媚なレミニアに別荘を建てたのはよいけれど、そこが氣に入ってしまい、永住を決め込んでしまった人々が現在のレミニア地方の領主階級です。これとは別に中世以降、武勲をたて新しく領主となった人もいます。武装した家来を從え、王侯と主從の契りを結び、戰争が起きれば一致協力して出陣し、分捕った食糧や家畜、土地、奴隷を山分けしました。その見返りに人質となった時の身代金を互いに支拂う約束になっていました。その契約は無際限無定見に行われたので、こんぐらがった紐のようになっていて、當事者以外には細部がはっきり分からないくらいでした。運の良い領主は大金持ちになって、帝國に貢納して大公 arkiduk, archduke や公爵 duk, duke の爵位をもらい、國主 regh, king になる者も現れました。王様になった領主に臣從してその信任篤く、王の代官たる伯になる領主も出てきました。武勇に優れた領主は戰功を立てて男爵 baron, baronに叙せられ、小金持の領主は王様に献金して准男爵 baronet, baronetの位を貰いました。領主は家来の武力を使って領土を守っていましたが、主力の地主騎士 kavalir bienhavant どもは年に40日しか軍役義務がないのが決りだったので、期限を過ぎると農事にかこつけさっさと歸ってしまい、その時點で戰争はお開きになるのが慣習でした。どうしても戰争を續けたい場合、ないし敵方が解散せずに戰意旺盛な場合は仕方がないので、お城に居候させている遍歴騎士 kavalir tramigrad どもと、大金を出して臨時に掻き集めて来た傭兵隊 soldatoy を繰出して闘いました。彼我ともに戰費が底をつく前になるべく損害を少なくして早く戰争を終わらせたかったので、隊長どうしの一騎打で勝負をつけたり、度重なる調停の機會を設けたり、いろいろ和平の工夫をしました。
  このように、なにぶん寄集めの軍隊なので離合集散も激しく、領主はいつも臣下の地主騎士や傭兵隊長 kapitan, captain に氣を使って統率に腐心しました。お城で事あるごとに槍試合を催し、そこに馳せ参じた騎士・劔士は連日の大宴會でもてなし、優勝者に多額の賞金を出し、血筋の良い若武者には持参金附の貴婦人 sinyorit とのお見合いを世話しました。近隣の地主 bienhavant、僧侶 pastrar、百姓町人 agrokulturist k urban、藝人 amuzist、物賈り vendist、乞食 almozist など、あらゆる人々が集って来てお祭騒ぎとなりました。普段でも領主は優れた武者を逗留させて、不意の私闘に備えていましたが、これには美しい優美な奥方が放浪の劔士を引きとめておくのに大きな役割を果しました。騎士道精神の戀愛奨励も實は対象が領主のやんごとなき奥方 sinyorin にありました。領主が頼んでもその望みを聞き入れない荒武者も領主の優雅な奥方に頼まれれば、相手が人喰い龍であろうと山賊供であろうと、勇躍その武勇を奥方に見せんがため出陣するのでした。プラトニックな貴婦人崇拝主義は、このあたりに隠された意圖があるようです。
  15世紀に至って税制が整い王様の國庫が潤い傭兵部隊や徴兵部隊 konskripciar を大量に使用できるようになると、臣下は新編成の王軍近衛士官 oficir gard となって宮廷で勤務しました。ことに爵位を持つ貴族は宮廷に入りびたりで、首府に屋敷を構え、領地の城館にはたまにしか歸らない暮らしとなりました。領地は地主どもが支えていましたが、たまに領主が失脚することがあります。けれど直ぐに後任者がやってきて、いつもと變らない暮しが續きました。

近世の領主の城
  → top


では村のしくみを概観してみましょう。

【面積・人口】
  典型的な「村」vilagh, village は、約10キロ四方の面積で、人口は1万人内外です。
  邊境、山嶽、森林、荒野地帯では20キロ四方の面積を持つ村もありますが、人口はやはり1萬人程度で變わりません。普通に聯想する小さな村落と云うより、それらを纏めた行政區畫と考えた方が良いようです。

10,000 x 10,000m
供用地(林野)
1小區
地主A
2小區
地主B
3小區
地主C
4小區
地主D
5小區
地主E
領主
直營地
領主
城館
供用地
(市街)
供用地
(工場等)
10小區
地主F
9小區
地主G
8小區
地主H
7小區
地主I
6小區
地主J
供用地(林野)

【小區】

2,000m x 2,000m
小農場1 小農場2 小農場3 小農場4 小農場5 小農場6 小農場7 小農場8 小農場9 小農場10

農場

農場
供用地

倉庫
加工場
市場
地主屋敷

  村は小區 vilaghet, ward に分けられています。小區は2キロ四方(邊鄙な地方では4キロ四方)で約100戸1,000人程度が住んでおり、その殆どが農家です。手入れの良い畑の中に、小作人の粗末な小屋が見え隠れします。
  とろこどころ廣い庭のある頑丈な2階建と附属の穀物倉が見えます。これは農場主の家で、小區に10家ほどあります。小作人に畑を貸して、作物の5割を小作料にとっています(この法律で定めた額を上回る事はできません)。庭には蔵や厩(うまや)の他に小さな長屋があり、臨時雇の農夫や年季奉公人を住込ませています。
  小區の中心には、教會・村役場出張所・雑貨店・煙草屋兼切手賈捌所・旅宿兼酒場・小學校分教場・巡査駐在所・消防團倉庫・産業組合支部・乗合馬車乗降場と云った村人のための建物が集っています。そこは農道や村道が交叉する交通の要點です。
  丘の上には地主屋敷があり、小區の全ての土地はここに住む地主が一手に管理しています(小區に地主は一人と法律で決められています)。地主は農場主に高額で土地を貸出し、その地代で暮らしています。しかし地主は自分の土地を賈却する事を法律で禁じられています。土地は國家のもので、地主はその永代使用権を認められているに過ぎないからです。また農業以外の事業に土地を貸すには、細かい制限があって、大きな工場を立てる事はできません。

【小農場】bienet, little farm
1,000mx200m

小作地
 1
休耕地
小作地
 2

小作地
 3
休耕地
小作地
 4

小作地
 5
休耕地
小作地
 6

小農場主
→ top

【中農場】bien medium, medium farm
2,000mx200m

小作地
 1
休耕地
小作地
 2

小作地
 3
休耕地
小作地
 4

小作地
 5
休耕地
小作地
 6

小作地
 7
休耕地
小作地
 8

小作地
 9
休耕地
小作地
 10

小作地
 11
休耕地
小作地
 12

中農場主
→ top

【大農場】bieneg, large farm
3,000mx200m

小作地
 1
休耕地
小作地
 2

小作地
 3
休耕地
小作地
 4

小作地
 5
休耕地
小作地
 6

小作地
 7
休耕地
小作地
 8

小作地
 9
休耕地
小作地
 10

小作地
 11
休耕地
小作地
 12

小作地
 13
休耕地
小作地
 14

小作地
 15
休耕地
小作地
 16

小作地
 17
休耕地
小作地
 18

大農場主


★ 以上が、村の概要です。
村では、
領主のもとに「地主10、大農場主10、中農場主20、小農場主50、小作人1,000、雇農夫(不特定)」および、その家族
が農業に從事しています。村を歩くと、廣々とした野原を區切って大小の農場が續いており、農場主の邸宅と雇農夫用の長屋があります。畑の中に小作人小屋が散らばっています。ところどころこに地主屋敷があって、辻には小教會、村役場出張所。小學校分教場、巡査駐在所、雑貨店、鍛冶屋、宿屋兼酒場などがかたまっています。村の中心には領主の城館と賑やかな供用地(大教會、市場、驛、役場など)が見えます。そこは道路(國道、縣道、村道)が扇の要のように集中し、村の中心點となっています

★ 村名は、領主の姓と同じです。  → top


★★行政★★



○ 村會 deputitar de vilagh, village assembly
  村の支配階級は地主なので、「村會議員」village assembly member は専ら地主全員が無給の手辨當持参でなります。議員選挙はありません。村長が議長となります。會期は村によって違いますが普通は、村役場の幹部も出席して、年に5〜10回くらい會合します。村會議員は村長を選挙しますが、候補者は議員でなくとも構いません。村會の議決は村の意思そのもので、村長はその實行役です。領主は専ら縣政・國政に参與するのに忙しく、村政には口を挟まないのが通例です。自治とは云っても、農場主以下の階級は議員になれないので、村會議員たる地主は、いつも自分の土地にある諸農場を訪問して、直接に意見を聞いてまわります。小作人以下は餘り陳情のルートが無いので、村議會が誤った決定をすると、不満の溜まった勞働者は、村役場の前に集合して騒ぎになり、一揆や暴動に發展することもあります。從って村會議員は聡明でなければ勤まりません。餘り暗愚であると、同僚や親族から隠退を勧告されたりします。
  昔は領主の館の廣間で開いていましたが、今は村役場の會議室を使うことが多くなっています。村役場の庶務掛書記が事務局を兼務し、議事録をとり、議決事項を關係各所に通知する文書を書き送ったりします。  → top
○ 治安判事 jughist d'ord publik, justice of the peace
  昔は領主が任命する惣名主で、村内の行政・治安を掌握する重要な役職でしたが、國家の地方制度が縣廰や郡役所、村役場として整備されるにつれ次第に治安に専念する役職となり、現在は専ら地方裁判所支部の出張判事のような職務となっています。違警罪の即決、豫審送致、代執行の監督が主ですが、邊境や外地では豫審判事の代理もします。
  村會議員の互選により就任し(定員2名)、名誉職で無給ですが、仕事は毎日のようにあって、駐在巡査が交通違反や浮浪者などを連れてくるので、その即決處分を決めるのに簡易法廷を開かねばならず、なかなか忙しい職です。その為任期1〜2年で交代する村が大多數です。
  事務所は村の供用地にある一等巡査駐在所の中にあり、そこで治安判事即決法廷と云う簡易裁判所を開いて違警罪の即決、民事調停、營業許可、不服申立などを受付けます。週のうち3日は當番でそこに詰めており、そのうち1日は同僚の治安判事との打合せ・事件引継・合議に費やさなければなりません。

治安判事2(輪番)(奏任八等官待遇吏員)
  書記(區裁判所ヨリ出張)(判任十四等官)
    印字手兼速記手(同上)(判任待遇十六等官)
    廷丁(同上)(判任待遇十七等官)
            使丁(傭人)
              給仕(臨時傭)

治安判事の簡易法廷(營業許可の申請や不服申立に来た人々で大混雑。)


  → top


○ 村役場 oficey de vilagh, village office
  村長 vilage administrator、助役 assistant administrator、収入役 paymster は名誉職で、無給です。収入と暇が十分にある地主階級以上の子弟でなければ勤まりません。村長は村會が選挙して任命しますが、助役、収入役は村長が選んで任命します。また村を10小區 ward に分けて區長 ward administrator が置かれ、村役場出張所の役割をします。これも名誉職で小區居住の村税納付戸主(農場主や商人)による互選で決まり村長が任命します。
  吏員は各掛(かかり)の主任以下、書記、技手など必要な職種を揃え、縣からの委任事務(戸籍、兵事など)、村獨自のサービス(財政、土木、水道など)を實施します。退營した職業軍人の再就職先のひとつで、傷痍軍人も多くいます。

村長(無給名誉職、奏任八等官待遇吏員)
  助役(無給名誉職、奏任九等官待遇吏員)
  収入役(判任九等官待遇吏員)
    文書係長兼村會筆頭書記(判任十等官待遇吏員)
      文書係書記兼村會書記(判任十四等官待遇吏員)
        書記補兼村會書記補(判任十八等官待遇吏員)
          筆生(雇員)
            使丁(傭人)
              給仕(臨時傭)
      兵事係書記(判任十五等官待遇吏員)
      戸籍係書記(判任十六等官待遇吏員)
      速記者(縣廳派遣判任待遇十七等官)
    財務係長(判任十等官待遇吏員)
      會計係書記(判任十四等官待遇吏員)
      村税係書記(判任十五等官待遇吏員)
      供有係書記(判任十六等官待遇吏員)
    社會係長(奏任十一等官待遇吏員
      保險係書記(判任十四等官待遇吏員)
        疾病保險書記補(判任十八等官待遇吏員)
        失業保險書記補(判任十八等官待遇吏員)
       勞働者災害保險書記補(判任十八等官待遇吏員)
      年金係書記(判任十五等官待遇吏員)
       老齢年金書記補(判任十八等官待遇吏員)
       寡婦年金書記補(判任十八等官待遇吏員)
       廢疾年金書記補(判任十八等官待遇吏員)
  小區長(無給名誉職、奏任九等官待遇吏員)
      兵事係書記(判任十四等官待遇吏員)
      戸籍係書記(判任十五等官待遇吏員)
          筆生(雇員)
            使丁(傭人)
              給仕(臨時傭)

村役場の戸籍係受付

→ top


○ 巡査駐在所 stacio de polic, police station
  縣知事 governer の監督する「縣警察部」police deparment は「町」town ごとに「警察署」police office を設けてあります。そこから巡査が派遣されてきて、村に駐在します。村には計12名の巡査がいます。供用地に一等巡査(巡査部長に相當)と助手の三等巡査2名(うち1名は夜勤専務)が、各小區に巡査(二等巡査2・三等巡査8)がそれぞれ1名づつ駐在します。一等巡査は経験豊富な巡査の親方です。二等巡査は駐在をするかたわら、班長として三等巡査4名の面倒をみます。
  駐在所は小作人小屋と厩に交番を足したような平屋で警察電話が繋がっています。ただ一等巡査の所は治安判事の事務所が同居しており、小さな留置場も、増員巡査用の豫備居室もある頑丈な2階建煉瓦造です。駐在巡査は受持區域 post を自轉車や馬で巡回します。レミニアは貧乏國なので警察用の自働車やオートバイは普及していません。平和な村は、これで十分ですが、交通の要所や大きな工場、礦山などがあるところでは、警察分署 police office branch や警部補派出分署 police lieutenant station が設けられ、十分な人員が配置されています。
  警察の無い邊境では、巡査の代りに憲兵 gendarmerie が駐在することもあります。憲兵は民間人に対し、巡査と同じ警察權があります。憲兵はさすがに軍隊の兵科だけあって、各自が軍刀と拳銃を持ち(刑事以外の巡査は佩剣のみ)、軍馬や二輪自働車(オートバイ)、側車(サイドカー)、時には機關銃付小型装甲車も備えていて、機動力・戰闘力とも満點です。必要とあれば、他兵科の部隊が補助憲兵として憲兵隊の指揮下に入り、その際の使用兵器は野戰と全く變りありません。
  巡査も憲兵もいない村は、自警團 vigilance committee を組織し、これを指揮する保安官 sheriff を雇入れ、自衛します。保安官は助手を伴い、銃で武装して、警察や憲兵と同じ働きをします。また所によっては執達吏や刑吏の役目もします。
  國有林野や公有林野では、内務省農務局の設置する「林區署」長たる「林務官」が警察の代わりを務め、俗に「山巡査」と呼ばれる山林監視員が村に属さない林野を巡回し、密獵・山賊・密輸をはじめとする犯罪を取締ります。ひとつの林區(數縣にまたがる範囲)には數箇小隊の監視員が、山小屋や小さな砦に分散駐在しています。
  湖水・沼澤・大河川・運河・海岸は、海軍鎮守府や要港部の防備隊に属する小艦艇が巡視しており、海賊・密輸・船上犯罪などを取締ります。警察も港湾都市には水上署を設けています。
  治安の悪い邊境では軍司令部の隷下にある護郷軍部隊 territorial regiment が小さな砦を設け分遣隊を駐屯させ、分哨を要所に起きます。要すれば鐡道列車・乗合馬車自働車・貨客船に隊員を警乗させます。金融機關・貴金属店・工場・倉庫・礦山などの産業施設、驛遞・港湾河川運河・飛行場・電信局などの逓信機關、更には個人でも相應の謝禮を以て警備を依頼すればこれに應じます。
  平均的な駐在三等巡査の扱う事件は、次のとおりです。

某月
1日 浮浪者が雑貨屋の前でウロウロしていたので検束。班長の隣の小區駐在の二等巡査に警察電話にて報告し、二等巡査は一等巡査に報告。供用地の一等巡査駐在所まで連行し、留置場に入れ、麺麭と水を給與。治安判事の即決法廷にて罰金を課されるが無一文で納入できない為、執達吏の護送車に載せ勞役場に送致する。
3日 巡回戸別訪問。
5日 小區班長(二等巡査)の巡視を迎える。
6日 本署にて集合術科練習。
8日 財布の落物が届く。後に農夫某のものと判明。引渡す。
10日 村巡査部長(一等巡査)の巡視を迎える。
11日 巡回戸別訪問。
12日 コソ泥を檢挙、留置して取調の後、治安判事の命令により送檢となるにより執達吏の護送車に載せ區裁判所檢事局に送致する。
14日 小區公吏會食。小區長、同書記1、同書記補2、小區出身村會議員、小教區輔祭、駐在巡査(本人)、消防團長、小區分教場訓導
15日 小區班長(二等巡査)の巡視を迎える。
18日 農場の柵を壊して焚火している浮浪者を檢挙、留置して取調の後、治安判事の命令により送檢となるにより執達吏の護送車に載せ區裁判所檢事局に送致する。
20日 村巡査部長(一等巡査)の巡視を迎える。
22日 巡回戸別訪問。
24日 交通事故救護。(農夫が郵便馬車と接触)
28日 泥酔者保護。
30日 一等巡査巡視。

縣警察部某警察署某村供用地駐在一等巡査(俗稱:巡査部長)(判任待遇十五等官)(polic serghent, police sergeant
    三等巡査(供用地駐在の助手)(雇員)polican, policeman
    三等巡査(供用地夜勤専務者)
  第1班長兼第1小區駐在二等巡査(判任待遇十八等官) polic korporal, police corporal
    第2小區駐在三等巡査
    第3小區駐在三等巡査
    第4小區駐在三等巡査
    第5小區駐在三等巡査
  第2班長兼第6小區駐在二等巡査
    第7小區駐在三等巡査
    第8小區駐在三等巡査
    第9小區駐在三等巡査
    第10小區駐在三等巡査

お巡りさんと子供
巡査

參考 → 治罪制度 shistem de proces kriminal, criminal process
   → top


○ 郵便局 oficey de posht, post office
  内務省逓信局は、村の供用地に三等郵便局を設置します(一等は縣の中央郵便局、二等は郡役場所在地、特定三等は郡役所所在地以外の町の郵便局)。郵便局と電報局・電話局を兼ねていて、郵便の集配はもとより、電報の受付・配達、電話交換、郵便貯金取扱をします。
  一日の平均取扱件數は、普通郵便で引受1,853通・配達1,918通、速達郵便引受3通、小包が引受26箇・配達25箇・代金引換3箇、電報の發信22通・受信10通、電話局區内交換17,414度、電話局區外交換825度となっています。
  郵便局長が内務省逓信局から仕事を請負う「私役場」(公務の請負人事務所)の形となっています。經營費は渡しきりで、赤字になると郵便局長は自分の財布から埋めます。黒字になると、それは郵便局長の収入となります。
  局員は郵便脚夫 postman、電信手 telegrapher、電報配達夫 telegram rider、電話交換手 telephonist と職種が揃っています。局長 postmaster の職は現役を退いた将校の再就職口となっていますが、なかなか空きがありません。
  郵便は町の二等郵便局から郵便馬車で届きます。局内で仕分をし、配達順路ごとに郵便脚夫が手紙や小包を鞄に入れて出かけます。郵便馬車が郵便ポストの投函物を集めてまわり、配達を終えて歸ってくる郵便脚夫に出會うと、これを便乗させて局に歸ります。

郵便脚夫
郵便脚夫

  電報配達は、晝夜にかかわらず乗馬で迅速な配達をします。自轉車、二輪自働車(オートバイ)を使うところもあります。速達の配達もします。
  各小區には出先の郵便取扱所があって、やはり除隊した准士官の再就職口となっています。これは切手・証紙・煙草など専賈品を賈る小店で、郵便ポスト、公衆電話の備付けもあり、電報の受付もしてくれます。電報文は店主が電話で、一字づつ「アサヒ の ア」と云うふうに郵便局に傳えます。
  また雑貨店や旅宿には切手賣捌所が附属していて、同様のサービスを提供します。許可制で1小區に就き數軒あります。

郵便局長(判任十等官待遇嘱託)posht majstr, post master
  書記(十四等官待遇私傭嘱託)
    郵務係書記補(十八等官待遇私傭嘱託)
    貯金係書記補(十八等官待遇私傭嘱託)
    給付金係書記補(十八等官待遇私傭嘱託)
      筆生(私傭雇員)
        使丁(私傭傭人)
          給仕(臨時傭)
    郵便脚夫伍長(十八等官待遇私傭嘱託)
      郵便脚夫4(私傭雇員)
        郵便御者(私傭傭人)
          厩夫2(臨時傭)
  通信技手(本局派遣)(判任十二等官)subinghenier de telegraph, teltegraph subengineer
    電信手(同上)(判任十四等官)telegraph operator
    夜勤電信手(同上)(判任待遇十五等官)
      電報配達夫伍長(十八等官待遇私傭嘱託)
        電報配達夫4(私傭雇員)
      夜勤電報配達夫伍長(十八等官待遇私傭嘱託)
        夜勤電報配達夫4(私傭雇員)
      電話交換手伍長(十八等官待遇私傭嘱託)
        電話交換手2(私傭雇員)
        夜勤電話交換手(私傭雇員) telephone operator
    郵便取扱所嘱託(判任十三等官待遇嘱託)
    切手賣捌所嘱託(十七等官待遇嘱託)  → top


○ 驛逓 staci de trafik, traffic station
  内務省逓信局は、各村の國道縣道沿いに「驛逓」を置き、馬車馬の交換・給養、車輛の修繕、旅行者の休憩施設としています。自働車時代となって、徐々に規模を縮小しましたが、鐵道・船舶以外の陸上運送機關として、健在です。殊に鐵道もなく道路も整備されていない山間僻地では、旅人には無くてはならないサービスです。また軍事上の目的に合せて十分な給油能力が整備されています。
  驛員は、退營軍人の再就職口となっています。

驛逓長(判任十二等官)majstr de trafik, station master
  助役(判任待遇十七等官)
      筆生(雇員)
    厩夫長(判任待遇十八等官)
        厩夫(傭人)
          雑夫(臨時傭)
    工長(判任待遇十八等官)
        蹄鐵工、鞍工、木工、機工(傭人)
          見習工(臨時傭)  → top

給油處


○ 鐵道驛 staci de fervoy, railway station
  鐵道は、幹線の他に輕便鐵道が村々を巡っており、たいていの工場にはトロッコ線路がしいてあります。村の供用地には貨物倉庫、側線、駅舎、プラットフォームのある立派な驛があって、村の鐵道中心地となっています。これは主に軍事上の目的から整備されています。

驛長
  助役
      信號手、轉轍手、貨物手、踏切番、雑夫
    出札係
    夜勤係  → top


○ 教會 preghey, church
  國教會は、各都市に大伽藍を建て司教座を置いています。司教のもとに郡毎(都會では市毎)に監督區が置かれ司祭長が傘下の小教區を監督しています。小教區は司祭が主宰し各村(都會では區)に置かれています。村の教會では、司祭のもとに「輔祭長」が小教區事務を取纏め、「堂守」が書記を務め「鐘撞」(寺男)が鐘を撞き、「侍童」(小僧)が祈祷の助手をします。司祭は日曜日に善男善女を集めて祭壇で禮拝と説教をします。一万人の村民を相手にするには司祭1人では手が足りないので、各輔祭區ごとに小教會を建て「輔祭」を置きます。結婚式、命名式、堅信式、葬儀、季節の祭、悪魔拂などの祈祷は、輔祭に頼むと安く濟みますが、大農場主や地主などの金持ちは、わざわざ司祭を呼んで大枚の御布施を出します。領主となると都會から司教を呼ぶので、大變な出費です。
  こうした聖職者は官吏の身分にあり、輔祭は「神學校」を、司祭は「神學科大學」を修了しています。陸軍の階級で云えば、司教が将官、司祭が佐官、輔祭が尉官、堂守・侍童が准士官・下士と云うところです。司祭や輔祭は地主階級以上の出身でたいへん禮儀正しく、博識で慈悲深い紳士です。祈祷の他に、村民の福祉に目を配り、村内を巡回して貧しい家庭を訪問し、慈善救貧の手配をし、心配事の相談にこまめに應じます。
  國教會は聯合共和國の定めた公式宗教ですが、別の宗派宗教を奉ずる者は、それぞれの宗團に属しています。國教會は地域社會の慈善に重點を置いた活動をするので、十分な社會福祉政策にまで豫算が回らない貧乏國レミニアに最適の宗派です。
  國教會の司祭・輔祭は領主や地主から慈善寄附金を集めるのが得意で、それを惜しげもなく自分の教區の貧窮した家族に與えます。また病氣や入營で一家の働き手がいない家族には、司祭の斡旋で領主の城館での有利な働き口を考えたり、醫師と共同で重病人の看護を管理したり、託児所を開いて子供を預ったり、孤兒や老人、體の不自由な人を引取って面倒を見ます。さらに出獄者や問題兒、寄留者が村の生活に適應するように、迫害を受けないように常に見守っています。軍隊との聯絡も緊密で、入營兵の家族の面倒をみます。貧乏な家では働き手が一人でも減ると暮らし向きに影響しますので、地主や領主の館に働き口を見つけてくれたり、遺された老人子供や病人の世話が出来るよう慈善寄附金を募ってくれたりします。
  司祭や輔祭は教育者としても活躍します。村の小學校補習科の講師として子供を教えますし、聖歌隊の歌唱指導もします。大人のための勉強會も主催します。文科理科全般にわたり、それぞれ得意のテーマがあり、寝る間も惜しんで研究に没頭し、聖職者から本職の學者になってしまう人もでるくらいです。
  ここに輔祭の仕事日記の實例を掲げて、その仕事の具体的内容を示します。

某月 1日 祈祷(葬儀)、教育(小學校補習科授業)
2日 保護(老幼2名浮浪者の宿泊・入浴・食事・施金)
3日 保護(失業者10名に施金)
4日 保護(半失業者20名に施金)
5日 保護(無料住宅5軒訪問)
6日 保護(妊婦1名の宿泊・食事・出産・乳兒院保護手續)
7日 日曜禮拝、保護(同上乳兒院送付付添)
8日 祈祷(誕生命名式)、教育(小學校補習科授業)
9日 保護(驅込者1名の入浴・食事)
10日 保護(託兒手續1名)
11日 保護(同上付添)
12日 救護(軍人遺族、身體虚弱者)
13日 救護(引取・養育手續、貧窮妊産婦)
14日 日曜禮拝
15日 祈祷(堅信式)、教育(小學校補習科授業)
16日 保護(捨兒1名の入浴・食事・乳兒院保護手續)
17日 保護(同上乳兒院送付付添)
18日 救護(不具癈疾者、乳兒哺育中の母)
19日 扶助(手續・訪問面談10件)
20日 扶助(同10件)
21日 日曜禮拝、扶助(同7件)
22日 祈祷(結婚式)、教育(小學校補習科授業)
23日 保護(病兒1名の入浴・健康相談手續・病院入院付添)
24日 保護(引取・養老手續、躯體不自由老人)
25日 救護(精神薄弱、子供)
26日 小教區會議出席
27日 司教講話出席
28日 日曜禮拝
29日 保護(素行不良兒1名の入浴・矯正手續)、教育(小學校補習科授業)
30日 保護(同上感化院送致付添)

小教區司祭(奏任八等官)pastr, priest
  輔祭長(判任九等官)chefpastret, chief assistant priest
    侍童(等外嘱託)paji, page
        聖歌手(傭人)kantist, choir boy
    堂守(判任十四等官)servant, servant
      筆生(雇員)
    保姆監督(判任十五等官)guvernistin
      筆生(雇員)
    看護婦長(判任十五等官)zorgistin por malyunul
      筆生(雇員)

  第1輔祭區輔祭(判任十等官)pastret, assistant priest
    侍童(等外嘱託)
          聖歌手(臨時傭)
    堂守(判任待遇十四等官)
      鐘撞(雇員)sonorigist
        墓守(傭人)tomb gardist
          墓掘人(臨時傭)enterigist
        使丁(傭人)pedel
          雑夫(臨時傭)diversayist
    保姆(判任待遇十五等官)vartistin
    夜勤保姆(判任待遇十六等官)
      見習保姆(雇員)vartistinet
    看護婦(判任待遇十五等官)
    夜勤看護婦(判任待遇十六等官)
      見習看護婦(雇員)
        付添人(傭人)
        夜勤付添人(傭人)
         第2〜10小教區

行路病人は全國で年間2,585人(うち女756)あります。行路死亡人は3,759(うち女702)あり、そのうち變死者は男2,045、女569です。  → top


○ 小學校 elementary school
  内務省學務局は全國の村に小學校を設け、6〜10歳の子供に5年間(尋常科)の義務教育を施します。また11〜12歳の希望者のために高等科課程、補習科(夜間高等科)課程があります。先生は「訓導」と呼ばれ、「師範學校」(中學校と専門學校を合わせたものに相當、専科訓導は得業士取得の必要がある)出身者で、男子教員は陸軍豫備役少尉補でもあります(師範卒業生は全員が國費で一年志願兵となる)。國民皆兵なので、兵士となるべき全國民に讀み書き算盤を教育しておく必要があるので、どのような僻地に行っても立派な小學校があります。子供が通うのに便利なように、分教場(尋常科生が通う教室で2小區に1、訓導5、生徒40)が設けられています。訓導37名(軍人で云えば尉官准士官級)teacher は學級擔任、分教場主任、科主任、科主事、教頭と役職があり、古手の校長は奏任官待遇者(軍人で云えば佐官級)となります。縣内務部學務課が校長を監督します。教員は謹厳實直な人が多く、職業柄たしょう頭が堅いのを除けば、信頼のおける知識人として村民の尊敬を得ています。
  この他に看護婦、書記、書記補、給仕、小使、掃除人がいます。
  生徒は、尋常科(6〜10歳)1學年に就き男女200人、5學年計1,000人。高等科(11〜12歳、2年制)1學年に就き男子33名、女子10名、計86名。補習科(11~14歳、4年制)1學年につき男子57名、計228名。女子實科(11歳、1年制)女子10名。女子補習科(11〜13歳、3年制)1學年に就き30名、計90。全校計1,238名です。制服はなく、給食もありません。尋常科の教科書は無料です。年に2回、尋常科・高等科を問わず全生徒に、領主からの贈物として鉛筆、帳面など文房具が配られます。中流以上の家庭の子供は、専ら家庭教師や寄宿私立學校により初等教育を受けるので、小學校にはかよいません。

校長(奏任七等官)maystr de lerney, school master
  教頭(判任八等官待遇訓導):以下、訓導は総て判任官待遇 instruist senior, senior teacher
      書記(判任十四等官待遇吏員)
        書記補(判任待遇十八等官待遇吏員)
          筆生(雇員)
            使丁(傭人)
              給仕、掃除夫(臨時傭)
    嘱託校醫(判任九等官待遇)kuracist de lerney, school doctor
        看護婦(判任十五等官待遇訓導)flegist, nurse
   高等科主事兼第1學年級擔任(判任九等官待遇専科訓導) 生徒50人
        第2學年級擔任(判任十等官待遇専科訓導) 生徒50人
        第1學年女子級擔任(判任十等官待遇専科訓導)生徒50人
        第2學年女子級擔任(判任十等官待遇専科訓導)生徒50人
    第1分教場主事兼補習科第4學年級擔任(判任九等官待遇専科訓導) 生徒20人
        補習科第3學年級擔任(判任十等官待遇専科訓導) 生徒20人
        補習科第2學年級擔任(判任十等官待遇専科訓導) 生徒20人
        補習科第1學年級擔任(判任十等官待遇専科訓導) 生徒20人
       第5學年第1學級擔任(判任十一等官待遇訓導) 生徒39人
        第4學年第1學級擔任(判任十二等官待遇訓導) 生徒39人
        第3學年第1學級擔任(判任十三等官待遇訓導)生徒39人
        第2學年第1學級擔任(判任十四等官待遇訓導)生徒39人
        第1學年第1學級擔任(判任十五等官待遇訓導)生徒39人
    第2分教場主事兼補習科第4學年級擔任(判任九等官待遇専科訓導) 生徒20人
        (以下第1分教場と同じ)
    第3分教場主事兼補習科第4學年級擔任(判任九等官待遇専科訓導) 生徒20人
    第4分教場主事兼補習科第4學年級擔任(判任九等官待遇専科訓導) 生徒20人
    第5分教場主事兼補習科第4學年級擔任(判任九等官待遇専科訓導) 生徒20人
  → top

高等科の教室


○ 護郷軍 heym arme, territorial regiments
  陸軍は正規軍のほかに、傭兵からなる護郷軍を認めています。
  護郷軍は、ちょうど警備會社の役割を果たしており、銀行・事務所の守衛・夜警や、郵便車・現金輸送車の護衛、私有林野の警備などを請負い、その利益で隊員の給料・装備を賄っています。
  村にも必要に應じて常雇の兵士が派遣されて來てそういう職務に就いています。有名な護郷軍は由緒格式があるので、なかなか入隊できませんが、名も無い護郷軍は常に兵員不足に悩んでいます。そこで、どの隊にも募兵掛下士がいます。
  大領主は、たいてい護郷軍部隊に出資し自ら名譽聯隊長を勤めており、自分の城館や私有地、供用地の警備に使用します。特定の地方出身者や外國人に限定して募兵する隊もあり、その給與や待遇、装備はまちまちです。小領主は何人か共同で、護郷軍を持ちます。邊境では、警察や軍隊の力を期待できないので、自衛のために住民が共同で護郷軍を持つ事もあります。また知事の特許を得て、住民自らが交代で護郷軍となって勤務する場合もあります。
  武装は小火器と舊式兵器に限られており、武力は野戰憲兵隊の域を出ません。護郷軍は地域ごとに聯隊に組織されており、陸軍の各軍司令部の指揮下にあって、隊員には陸軍刑法及び懲罰令が適用されますので、軍紀厳正です。最も有名なのは國家元首宮殿警備の近衛隊です。聯隊と云っても舊式編成を維持しており、歩兵で9箇中隊、中隊は100名程度の定員となっています。護郷軍聯隊は退役や半給軍人の格好の就職先です。奇妙な事に将校の進級は賣官制度によっています。一昔前の軍隊がここに生きており、格式ある聯隊の将校の株は非常な高價がついています。  → top
○ 消防團 fayr gardar, fire guards
  村には消防署がありませんが、消防團があります。一家から一人が團員となって交代で火の見櫓に立ち、火事があれば警報を鳴らし、消防馬車を繰出して消火にあたります。各小區に消防庫があって、消防馬車(放水ポンプ、梯子付)と消防服、を備えています。

消防團の小區消防庫
消防團

その他の村民も消火協力の義務があり、年に1回ほど村民総出で訓練をします。訓練と出動以外に集合する事は、村の安寧静謐を保つため許可されません。暴動や騒擾の拠點となるのを領主が懼れるからです。
  しかし戰争が近づくと警防團に編成替えされ、民間防衛に從事します。  → top


○ 産業組合 cooperation, cooperativ
村の地主・農場主・小作人その他の借地人が組合員となって貯蓄・低金利融資、生産物の共同販賣、生産材料の共同購入、共同の倉庫・梱包場・加工場經營、研究試驗講習などの技術支援、特許・商標・争議調停などの法務支援、出稼人・臨時傭の共同募集・勞務管理を營みます。殊に特産物の生産販賣に於いて品質向上・販賣擴張に威力を發揮してゐます。

組合長
 理事・文書部長
    庶務係長
     秘書
      庶務書記
     法務書記
     耕地整理書記
   勞務係長
      勞務書記
  理事・商務部長
    商務係長
     商務書記
    財務係長
     會計書記
      融資書記
      貯蓄書記
  理事・工務部長
    工務係長
      受託試驗技手
      工程管理技手
    工場長
      事務係
      倉庫係技手
      加工係技手
        工手
        職長
          組長
            伍長
              職工     → top


★★供用地の人々★★

○ 職人 artizan, artisan

○ 商人 komercist, merchant

《仲買商人》 maklerist, broker
  農産物を買いつけて他所に運んでいき手間賃を貰う商人ですが、扱う量が大きいので、莫大な金額が動きます。一軒の農家が一年間食べていけるだけの金額を取引するので、それが何十軒何百軒となると、大變に儲かります。それで暮らし向きは中流程度ですが、派手な生活はせずに、せっせと貯金する人が多くあります。贅澤な暮らしをしていると、不作の年に借金だらけになったり、倒産してしまうからです。農産物なら何でも扱いますが、特定の作物を専門に扱う商人もいます。小麥の買付はA商會、野菜の買付はB商店と、種々の仲買人が入ってきます。最近は村の産業組合が發達して、いったん農家から託された農産物を自前の工場で加工ないし梱包し、一括して仲買人に賈却するので、昔のように村人と商人の虚々實々の驅引は、よほど特殊な産物でない限りは見られなくなりました。

《雑貨商》 necesajist, grocer
  各小區の集落には必ず雑貨店があって、こまごました日用品・食品・菓子を取揃えています。そこに無い品は、見本目録で取寄せてくれます。都會から押寄せてくる新製品は、先ずここの店先に陳列されます。しかしお得意は現金収入の乏しい自給自足の農夫が大多數なので、やはり暦や農具・工具、種苗に肥料、柵の材料などの金物荒物と云った農作業に入用なものが一番よく賈れます。

《古着商》 uzit vestoy vendist, secondhand clothes dealer
  各種衣類の古着を取揃えています。大多數の村民は晴着以外は、古着を普段着にしているので、繁盛します。仕立直しの職人も雇っていて、店頭に並んでいるものは、それと云われるまで古着とは氣が付かない出来のものばかりです。

《旅宿》 gasteyist, innkeeper
  驛前には必ず大きな宿屋があります。たいてい二階が旅人の宿泊する部屋で、一階の廣間は村人が集まってきて飲食する料理店兼酒場になっています。地方によっては、小さな舞臺がしつらえてあって楽師や歌手が音曲を奏え、これに合わせて客が踊ったり、あるいは専門の巡回芸人が妙技を披露したりします。娯樂の少ない邊境では、玉突や骨牌などの遊戯場、さらに映畫上映場が附属していることもあります。また小區の集落には小さな木賃宿があって、日が暮れても旅人は野宿せずに濟みます。しかし宿泊客は稀にしかおらず、むしろ近在の住人が飲食したり休憩したり、カルタ遊びをする社交倶樂部として機能しています。主人は大抵が退職巡査か退役下士、隠退執事で、近隣の噂話から村を通過する旅人の動向まで、よく知っており、探偵小説にもあるように、城館の領主に招かれた探偵が先ず情報収集に行くところが旅宿であるほどです。

《風呂屋》 baneyist, bathkeeper
  たいてい旅宿の隣に開業しています。旅宿が兼業している店もあります。一人用湯船を備え付けた個室が少なくとも半ダース並んでいて、別に共同休憩室があります。地方によっては蒸風呂があり、三助(按摩、垢すり、背中流し)のいるところもあります。レミニア人は中世には好んで入浴していましたが、傳染病の流行により共同風呂が感染源となる惧れから、入浴は健康に悪いと信ずるようになりました。このため自分の家で盥に湯を汲んで簡單な行水をしたり、湿した布で體を拭く程度となり、なかには生まれてこの方いちども入浴したことがない人も稀ではありません。香水が普及したのも、これが一因です。しかし入浴をしないと却って外傷に菌が入りやすくなります。近代となってから、國民の不潔な状態を憂えた内務省衛生局は共同浴場の規則を整え、入浴を奨励するようになりました。風呂屋は警察の衛生檢査を受け、清潔状態を保つようになりました。しかし習慣はなかなか、すぐに直せると云うものではなく、兵營や學校での入浴奨励に拘わらず、レミニア人は入浴を生活上、必要不可欠なものとは考えていないようです。人の家に招待される時や埃だらけの旅行から歸った時など、止むを得ず風呂に入らざるを得ない時には、自宅で完全な風呂が賄えないので、設備の揃った風呂屋にやって来ます。中には入浴が遊びや趣味となってしまい、頻繁に来る人も居ますが、料金が高く時間がかかるので、小金のある遊び人や暇人でないと通えません。
番臺に座っている女将に入浴料金を拂い、苛性曹達の小袋を買います。必要ならばタワシ、石鹸、香水や入浴劑の小瓶も賣っています。女中に案内されて指定の個室に入ると、脱衣籠があり、槽に湯が張ってあります。餘り掃除が行き届かないので、前の客の湯垢が残っていることがありますが、苛性曹達を入れると綺麗になります。そのまま湯に浸かって30分くらい過ごします。地方によっては蒸し風呂で過ごすところもあります。浴槽の中で、石鹸を使ったり、入浴劑を軀に浸み込ませたりして、樂しみます。軀を洗ってくれる「垢擦り」人を呼ぶこともできます。出ると女中の汲んでおいた上がり湯を被って、備え付けの浴衣を羽織り、衣類を持って休憩室にいきます。そこでは腰掛や寝そべることのできるデッキチェアがあり、飲料などを賣っています。料金を出せば「按摩」が来てマッサージをしてくれます。衣類を着けて出てくると、隣の旅宿の入浴客専用室で飲食し、良い氣分で歸宅できます。

《炭屋》 karbist, charcoal dealer
  炭の他に、石炭・練炭・燈油など燃料ならば何でも扱います。最近では製氷器を備えつけ、季節を問わず氷を配達するようになりました。

《質屋》 lombardist, pawnbroker
  供用地の路地にひっそりと店を開いていますが、これは出入りを人に見られたくない客のためにする工夫です。農村では現金収入が少ないので、お金が必要な時には、家財を質屋に預けて工面します。利子をつけて質種を受け出すのですが、そのまま預けっぱなしにして利子も拂わず質種を取りに来ないと、質屋は品物を没収して、これを古道具屋や古着屋に賣って儲けます。
貧乏人の主婦は朝に使った鍋釜を質に入れ、その金で食糧など必要なもの買い、夕方に日雇から帰ってくる旦那から賃金を貰って、その金で質種を取り戻すと云う有様で、質屋は貧乏人が多ければ、ちまちまと繁盛します。最初から質種を受け出す心算のない者もきますが、これも良いお客です。山から降りてきた獵師が毛皮などを持ち込むからです。できるだけ安く金を貸して、期限がくると毛皮の仲買商人に高く轉賣します。仲買商人が直接に獵師から獲物を買い取れば良いのですが、獵師は山の人で、なかなか捕まりません。やっと捉まえて取引をしようとしても、お土産を用意しておかなければならず、その内容によっては向こうを怒らせてしまう事があるので、村の質屋を巡回して平和に簡單に毛皮を入手する方が經濟です。
また質屋は無尽・両替・融資・手形割引など小規模な金融業も兼ねており、ちょっとした村の銀行の役割も果たしています。そのため使用人も多く、店構えは表から見るより奥深い造りとなっています。大きな蔵は質草を保管するために、必ずあります。質屋の主人と云えば、田舎の小財閥です。

《口入屋》dungagenteist, recruiter
   こう云う人手が欲しいと頼んで多少の手間賃を佛っておけば、適当な人を送り込んでくれます。片手間にやっているのから、町や都會の商人の依頼を受けて手広くやっているのまで、いろいろあります。大勢の出稼を世話をすると大變儲かります。   → top

○ 専門職 specialist, professionals

○ 隠退者

供用地には、隠居した人々が小さな家を建てて住んでいます。贅澤はできませんが、食べるに困らない程度の小金があります。元氣な人は畑を借りて小作に出して農場主の氣分を味わうことも多く、村の文化人として、ちょっと變った階層を形成しています。

《恩給生活者》pensioar, pensioner
  役人や軍人は、十二年以上勤めて職を退くと恩給を貰えます。在職時の半分くらいは呉れるので、贅澤をしなければ、そこそこ暮らせます。他に財産があれば、云う事はありません。纏まった資産は信託にして運用し、利子を小遣いの足しにできます。

《隠退者》retired people   小金を貯めた商人や職人親方は、隠居して田舎でのんびり暮らします。この中には足を洗った暗黒界の顔役も紛れ込んでいます。

《年金生活者》ermit
  財産(地所・國債など有価證券)を銀行や信託會社の抵當に入れて終身年金を貰う信託制度で、本人が亡くなると財産は預けた先の所有に移ります。少なくとも受給年金額の100倍の額を用意し、本人の年齢が中年以上でないと引受手がありません。

《半給生活者》half payed
  まだ若いのに役人・軍人が物價の安い田舎の質素な家で所在なげに暮らしていることがあります。待命になりポストの空きを待っている連中です。現役の半分から1/3の俸給しか貰わないので、家族持ちは都會では諸色高價でとても暮らせません。そのまま退職してしまったり、現職に復歸したり、つてのある都會に出て行ったり、また歸ってきたり、顔ぶれは就中變わります。退職者は恩給生活者となったり、再就職します。
正規軍の軍人は、護郷軍に志願して再就職すれば優遇されますが、格式のある部隊は有産階級の子弟がポストを獨占しており、それなりの階級に就こうとすれば、それなりの大金を出して任官のための株を買わないといけません。任官後も諸事物入りが多く、遊んで暮せるだけの資産がないと、やっていけません。いきおい邊境の社交費不要の貧乏部隊で外國語を喋る傭兵や移民志願者の兵隊を指揮して、山賊退治や土民叛亂の鎮壓など危險なうえに報われない任務に就くことになります。これだと任官の為の金もタダ同然ですし、取敢えず将校の生活水準が維持できます。その分だけ苦勞が増えますが、家族を養う為、軆面を保つ為には仕様がありません。  → top


【旅人】voyaghul, travelers
  仕事や遊びで短期間だけ逗留する人々を旅人と呼びますが、これには様々な種類があります。

○ 物見遊山の人
  仕事や休養がてら田舎の見物に来る人々で、大抵は裕福な小金持が多く、中にはひたすら観光を趣味としている人もいます。旅宿の上客です。馬車を雇い名所に遠出をするので驛逓の御得意様でもあります。また山村や湖沼・森林など辺鄙な村では案内人を頼むので、農閑期の村人のよい臨時収入源ともなります。身分のある人々は家来を連れてきて、地主や領主の屋敷に逗留します。しかしひどく貧乏な者もいて、粗末な身なりをして野宿したりするので、駐在巡査に浮浪罪の疑いで捕まり、留置場に入れられてしまう者もいます。學生・生徒や少年團の若者が組になって徒歩旅行をして、村を宿にすることもあり、そういう時は余り年齢が若いと、教會や小學校が宿泊を引受けたりします。

   ○ 遍歴職人 vojaghul, journey man
  職人になりたての若者は自分の腕を磨く為に諸國を遍歴し、同業組合に加盟する様々な親方の仕事場に逗留して技術を學ぶのが習慣となっています。名だたる親方が村に居れば頻りに若い衆が訪ねてきては仕事を手傳い、粗末な食事と寝床をもらって只働きをします。そのまま居ついて親方の娘に婿入して跡を継ぐ場合もありますが、大抵は何時の間にか他所に移旅立っていきます。

○ 遊藝人 strolling entertainers
  村々を巡回しては共有地の辻や旅宿の広間で音樂や踊りと唄、芝居、曲藝・手品、漫談、即興詩、似顔絵などを披露し投銭を貰う旅藝人です。評判の良い者は地主や領主の屋敷に呼ばれて藝を披露します。また気に入られた者は屋敷や旅宿に逗留して村人を樂ませます。

中世の遊藝人(現代でも農村ではこの様な辻音樂師が見られる)

○ 出稼
  これは裕福な村に限られていますが、農繁期や特産品の製造加工の為に臨時に村外から人を雇入れることがあります。村から出て他所で暮らしを立てている若者などが呼び返されたりしますが、大抵は外地や外國の安い賃金で満足する人々を仲買人が斡旋して集めてきます。短期間しか滞在しませんが、仕事が終わっても帰国せず、そのまま都會に流れて行く者も少なくありません。

米作地の田植

○ 巡回商人
  村や町を巡って商品を売る販売員です。一人で幾つもの販売員を兼ねているのが普通です。巧みな勧誘と誠実な対応で沢山の御得意様を持っています。商品は薬や布地、銃刀、書籍、暦、調理具、専門職や職人の使用する特殊な器具用具などが有名です。卸専門の商人もあり、これは専ら村の商店や職人が御得意です。大抵は旅宿の安い部屋に泊まり、数日かけて村内を巡ります。中には自家用荷馬車で移動する者もあります。


【家事使用人】


○ 女衆< virin, women

《下女》 infantin, girl
  農家の娘は小學校を卒業すると行儀見習と口減しのため、他家に女中として奉公にでます。最初は下働きとして皿洗、掃除、洗濯など雑用下働を順繰りにこなします。そうやって家事の基本を身につけます。遠く縁故を頼って都會に出る者もいます。屋根裏や地下の女中部屋で暮らせるのは良い方で、臺所の隅や階段下の物置で寝起するのが普通です。それでも食事はきちんと支給され、清潔なお仕着せをもらえ、週に1回は好むと好まざるとに關わらず入浴させられ、化粧の仕方を教わるので、外見が向上して親でも見違えるくらいになります。毎度の食事は使用人食堂で一同が集まり怖い女中頭や執事から上品な食事作法を教えられます。日常の言葉遣いや禮儀作法、挙措動作も嚴しく躾けられます。

《女中》 servistin, maid
  下女を卒業すると、賄料理(使用人や子供向の食事・喫茶)を任されたり(臺所女中 kuiristin, cook maid)、會食の給仕に出たり(食堂女中 kelnerin, parlor maid)、寝具の整頓や部屋の掃除をしたり(掃除女中 balaistin, house maid)、洗濯と衣類の整頓をしたり(洗濯女中 washer woman)します。手下に下女がゐるとは云へ係の主任として責任が出来るので良い加減な仕事は出来ません。地主や領主の屋敷では女中に細かい格付があって、その段階を一つづつ登っていきます。衣食住が主人持ちなので、給金はそっくり小遣に使えますし、貯金も仕送もできて、女工をしているよりは餘程よい待遇ですが、難を云えば、朝早くから夜遅くまでの不定時勞働で睡眠時間が短いので、體力がないと勤まらないことです。女中勤めの最大のメリットは、女中頭の厳しい監督のもとで、食事や服飾趣味を含めた行儀作法と上品な正しい言葉遣が身につくことです。だんだん老練となって格があがると、主人の推薦を受けて他の家に女中頭として榮轉する機會があります。この時には主人の地位が高ければ推薦状の威力は増加します。

《小間使》 chambristin; chambermaid
  御婦人附の腰元で、身の周りのこまごまとした世話を焼く奥女中です。採用基準が厳しく、容姿・體力・教養・家柄につき審査があります。地主屋敷・領主館では各御婦人に必ず附いています。殊に奥方附の小間使は見習を含めて數名を揃えてあります。一般の女中より格が上で、女主人の衣装とその保管出納修繕、化粧、入浴、茶菓子の給仕などを扱い、高価な宝飾品管理もします。外出の時には、盛装で随き從い、こまごまと世話をやき、ついでに護衛役も兼ねます。

《乳母・保姆》 suchigistin, nurse
  子供のいる地主屋敷・領主館には必ずいて、専ら幼兒の面倒を見ます。ことに保姆は、看護婦の免状を持っているのが普通です。とりわけ女子専門學校の保姆科卒業生は、榮養學や小兒醫學の知識があるので、ひっぱりだこの人氣です。乳母は自宅から通う者もおり、複數いることもあります。子守の少女が補佐でつきます。女中や小間使とは系統が別になっており、屋敷内に専属女中附の個室をもらって優遇されます。

《女中頭》 mastrumistin, house keeper
  年季を積んだ女中のうち、才能のある者は、女中頭(家政婦)になって、家計・家事を取締り、女中・下女の教育係をします。大農場主以上の家には必ずいます。邸内に専属女中附の個室(寝室・居間)をもらって優遇されます。軍隊で云えば士官・准士官なみの扱いです。居間は女衆全員が集って喫茶できる廣さです。女性の使用人はここでお茶を嚥むことになっていて、茶・砂糖・菓子は女中頭が預かる手當から出ます。食事作法、身嗜み、お茶の時の會話など必要な技倆を、年端のいかない下女や修業の足りない女中に厳しく教え込み、率先して家事を運ぶので、なかなか氣骨が折れます。
  貴族の家には、城館・別邸・別荘などの各女中頭の上に更に「家政監督」(inspektorin mastrumad)と云う恐ろしい名前の奥女中頭がいます。事實は屋敷の中に引退した女中頭がそのまま自分の個室に専属女中附で暮らしているのです。名誉職のようなもので、複數人いることも珍しくありません。


○ 男衆 vir, men

《子供》 infant, boy
  次男以下の男の子も、小學校を卒業すると他家に農夫や下働として奉公にでます。地主や領主の館では雑役、使走りなど雑用をこなし、言葉遣い、行儀作法を覚えます。長男は親の畑を継ぐので奉公には出ません。

《下男》junul, footman
  子供が少し大きくなって役に立つようになると、執事や従僕の助手として主人一家や幹部使用人の給仕に立ち働きます。使走や御者・自働車運轉手の助手は館の外でも主人や其の家族の傍に附いて立働くので誰が見ても恥ずかしくない立派な制服を着用します。

《從僕》lake, valet
  下男のうちから氣が効いて容貌に優れた者が選ばれ、扈從として主人や家人、逗留客に随き從い、身の回りの世話をします。主人一家の外出と旅行に随き従い、護衛と雑用を承ります。服装もお仕着せではなく、主人と同じ紳士の格好です。執事の監督下にあり、多忙時には執事を補助し其の代理をしたりします。

《執事》 intendant, butler
  地主屋敷や領主館には、執事と云う從僕頭がいます。正装に身をかため来客の應對・接待、主人とその家族の食事・娯樂・外出護衛・旅行付添など暮し向き全般を取仕切り、家政婦と協力して使用人の監督をし、男衆を取締り、教育し、また食堂、高価な食器、郵便・電話の管理をします。地主以下の家では酒蔵番の代りもします。主人の奥向きの暮しは此の執事に頼ります。配下の從僕を使って手紙・新聞・茶・煙草を運び、客の取次・案内・もてなし、冷暖房・照明、着替、戸締、なんでもしてくれます。女中頭と同格で、屋敷内に専属從僕附の個室(寝室・居間)を持っています。食事は地下臺所の横にある使用人食堂で非番の使用人全員が會食しますが、必ず出席し食事を共にし乍ら、女中頭と共に食卓作法の教育を此處でします。
  大きな館では、複數の執事のいることがあり、家令または筆頭執事のもとで仕事を分擔しています。例えば玄關で取次だけする執事だの、給仕専門の執事や、夜間専門の執事(隠退しても行く先のない老執事がなることが多い)、見習執事(從僕から昇進した若者や新規雇入れの者)を置きます。

《厩番》remiz majstr, stable & garage master
  昔は馬廻役と云いました。領主は車馬を澤山入れる立派な車庫と厩を持っています。厨番は配下の監督をし、馬・馬車・自働車・馬具・自働車用具・秣・油脂・鍛冶の調達・管理と配車をします。自ら主人用馬車の御者を務めることもあります。專用の小屋に住み、下男が付きます。配下どもは厩や自働車庫の階上に住み、共同の賄番(料理人)と洗濯夫・掃除人が付きます。馬車關係の部下には御者veturigist,coachman(主人用馬車運轉と家族用馬車運轉のため複數人いる)・調教師(年季の入った御者がなる)・馭者助手tigr,tiger(容貌の良い小柄な子供が御仕着で馭者・自働車運轉手の横に座り主人の威儀を整える装飾的役目)・馬丁chevalservist,groom(馬の世話・左馬御者・乗馬助手)・厩夫stalan,stableman(厩の雑役)・馬具磨yungilinfant,steelboyがあり、自働車關係には運轉手shofer,chauffeur・整備工mekanik, mechanic・整備工助手mekanik assistant・運転助手(御者助手が兼ねる)がありますが、全部の職種が揃っているのは裕福な貴族の館だけで、馭者・自働車運轉手・馬丁が2〜3人で纏めて職務を兼ねているところが大多數です。主人や其の家族の外出に伴ふ時は誰が見ても恥かしくない立派な制服を着用します。

蹄の手入

装蹄

《庭師》ghardenist, gardener
  庭番とも云います。屋敷の庭を維持する以外に塀や門・柵・通路・廣場・水路と云った外構の修繕、食事に使う野菜・果實、装飾・服飾に使う花卉類の栽培もします。昔は季節外れの果物を温室で育てたりしていましたが、運送の迅速化と冷凍など保存技術の發達した現在では廢れてしまいました。專用の小屋に住んでおり、下男が付きます。配下subgardenist, undergardenerどもは長屋に住み、共同の賄番と洗濯夫・掃除夫が付きます。仕事は道路水路・菜園・果樹園・庭園・温室・花畑・花装飾(衣服の飾花・室内の飾・花束)と分かれており、それぞれを助手が分擔するのですが、主人の懐具合によって一人が幾つかの職務を兼務します。庭師一人きりの小さな館もあります。雑役夫(子供の見習)もいて芝生の刈揃え、道路や池の掃除、作物の水遣り、雑草取、など農夫の下働きと同様に働きます。


○膳部 kitchen workers

女中頭や執事から獨立しており、食糧の購入を主人から直接に委任されています。

《料理番、料理人、女料理人》maystr kuirist,kuirist,kuiristin ;chef,cook,cook-general
  客を招いての會食が多い領主館では、腕の良い料理長 chef を高給で雇い入れます。大勢の下働きを使い、厨房を一手に取仕切って、宴會料理から日常の輕食まで手を抜くことなく招待者の舌を唸らせます。料理長の權威は大きく、屋敷を移るときには腹心の次長を後継者に推薦する權利を持っているほどです。
  地主は、普通の料理人 kuirist,cook を雇っています。あまり込み入った宴會料理はできませんが、普段の食卓には缺かせません。地主より少し格の落ちる農場主は、料理人を兼ねる女中(女料理人) kuiristin, cook-general を雇います。これは時に家政婦を兼ねることもあります。

《麺麭焼番、麺麭焼》maystr panist, panist ;master baker,baker
  領主館と地主屋敷では、麺麭焼職人 baker をおいて自前で麺麭を焼きます。ことに領主は優れた麺麭焼親方 maystr panfaradist, master baker を高給で雇います。

《製菓番、菓子焼》 maystr kukist,kukist;master confectioner,confectioner
  さらに上級の領主は、社交上の必要があって菓子焼人 konfekcionist, confectioner を雇います。男爵以上となると菓子焼の親方 maystr konfekcionist, master confectioner を置き、料理・麺麭焼・製菓と厨房を3部門に分けます。

《酒蔵番》 vintenist, sommellerie
  酒蔵の管理人です。料理長からは獨立していて、主人に直接に属し、酒類の選定購入・保管・出納をします。高価な酒類を供す領主館にしかいません。正装をして首から酒蔵の鍵を紐でぶら下げています。地主以下の家では雇う餘裕がないので、執事が代りをします。

《門番》pord gardist, gatekeeper
  執事の監督下にある城館や屋敷の門番です。退營下士官の再就職口として人氣です。夜間専用の夜番nokt gardist, night watcherもいます。

《獵番》chasgardist, game keeper
  獵場の管理と密獵者の取締をします。狩獵招待客の世話をするので、執事と同等の地位を占めていますが、大領主の家にしか居ません。獵場巡視、動物の保護、獵犬の飼育・訓練など仕事は多く、獵場の小屋に住み、下男が付きます。配下は長屋に住み、共同の賄番と洗濯夫・掃除夫が付きます。


○ 高等使用人 gast, guest

雇い人ではありますが、主人友人としての待遇を受けます。具体的には外出や食事の時に、主人と同じ席に座り、同じ饗應を受けることが許されます。また服装言動も紳士淑女のそれであることが要求されます。

《家令、家扶》chef fewdul, steward
  家老のことです。貴族は臣從關係が複雑に入組んでおり、また田舎の城館の他に首都にも政務(貴族院議員を兼ねるため)と社交向けの別邸があるので、主人を補佐し、家産全般を取仕切る家老が必要です。領主の親戚や地主の子弟から適任者が選ばれます。或いは領主の軍隊時代の同僚下僚が引抜かれることもあります。稀に秘書や差配人から昇進する者が見られます。領主の忠實にして誠實な友であり代理人です。

《秘書役、秘書》 sekretariestr, sekretari; master secretary, secretary
  爵位持ちの上級領主が専ら雇います。城館の文書と帳簿の管理をします。専門學校で法律や簿記を修めた人がなります。時には主人の抱える訴訟の代理人となることもあり、領主の家政管理には缺かせません。男爵以上になると、秘書の長として有能な秘書役がいます。大きな城館では速記者や筆耕者を部下に雇う例もあります。城館の中に事務室を構えています。

《差配人、差配》 agentestr, agent; master agent, agent
  差配は、地主や領主の土地を管理します。地代の取立てにくるので、「大家さん」と云う綽名がついています。高等農林學校の卒業生が多く、細かいところに目が届き、土地を借りている農場主や直營地の小作人には五月蝿い存在ですが、不作や災害の時には種々對策を講じてくれるので頼りになります。土地を巡回し、参考意見を述べ、援助措置を講じ、農地全体の經營に氣を配ります。また領主は必要に應じ森林や湖沼河川、海岸、礦山、商工業地など特別な分野を専門とする差配を持つこともあります。複數の差配がいる場合は、これらを統括する上級の差配人を置きます。城館の中に事務室を持ち、助手や測量師を雇います。

《友人》kompani, companion
  いつも主人と行動を共にし、身邊の護衛をします。無聊を慰めるため話相手になり、食卓仲間となり、ゲームを共にします。雑用を引受け、秘密の用向きもそつなくこなします。主人とは互いに紳士としてふさわしい言動をとっているか審査し、臆することなく忠告をしあい、行いを正します。一緒に技藝を學ぶこともします。一般には信頼する友人や親戚の若者から選ばれますが、時には軍隊時代の同僚・部下、特別な才能を持った人物が任に就くこともあります。また下級の家の子弟を何人か行儀見習のため預かる場合も多く、この場合は昔の小姓(騎士見習)のようなものと云ってよいでしょう。
  貴族の子弟が親元を離れて遊學すると、たいてい「學友」の名の下に同僚學生の中から相當の手當と共に監視役が立てられます。この學友は時折、悪友も演じて、若様に世間勉強をさせる役目を負います。

《司書》 arkivist, archivist
  城館の古文書を管理します。古文書専門學校卒業生の主な就職口です。領主は自家の圖書室に祖先傳来の古記録を収蔵しているので、その整理補修、閲覧の世話に任じる専門家が必要です。蔵書の中には世界で1冊しか残っていないと云う貴重な本もあり、學者や好事家が閲覧に訪ねてきます。學界では互いにこうした蔵書を見せ合う習慣が古代より續いています。また蔵書の復刻作業にも携わります。

《學藝員》kurator, curator
  祖先傳来の骨董品や領地に傳わる遺構などを保管し、一部を展覧に供する専門家です。大學の美學や史學の學士を古い家系の大領主が招聘して、研究室兼保存庫、展覧場を提供します。小規模な城館では司書が職務を兼ねる例があります。

《家庭教師》instruist privat aw guvernistin, tutor or governess
  地主以上の子弟は村の小學校に通わず、自分の家で初等教育を受けます。その教師をするのが住込み家庭教師で、幼兒や女兒には女子専門學校や寄宿學校卒業の女性が宛てられますが、領主階級は評判のよい大學士を雇い入れ、研究室と教室を提供します。親戚や高等使用人の子供も學友として一緒に教育を受けさせます。衣食住保障の住込み教師をしながら、自分の専門の研究ができるので、上級の學位を取得して大學や研究所に招聘される人が多く、頻繁に顔ぶれが變ります。
  この他に劍術・馬術や舞踏、音樂の教師 instructer もありますが、こちらは完全な住込みというわけではありません。時々レッスンに通ってくるのが普通です。時には評判の良い先生を招いて長逗留させ、子供から主人、使用人まで一家中で技藝を傳授してもらう事もあります。

《御話相手》 kompaniin; companion
  御話相手は、女主人の話相手兼秘書役を務める教養ある婦人です。本を朗讀してあげたり、談話を筆記したり、手紙の原案を書いたり、社交の手配をしたり、茶のみ話をしたりします。相手の機嫌を損ねない頭の良さと機轉が必要です。また別の重要な役目に、女主人の護衛と云ふのもあります。  → top


【出稼人・都會に出た人々】

○ 出稼人

人口が増えてくると餘った人々は、たいてい次男以下ですが、みな村の外に出て自活するようになります。村にいても食べるだけの就職口が足りないし、從ってお嫁さんも貰えないからです。女の子も同じで、次女以下は村の外に出て自分で暮す工夫をします。農繁期だけ帰ってきて働き、また村外に出て行くという形も見られます。

《出稼》
  その練習に若いうちから出稼ぎに行きます。遠い地方の収穫期に臨時雇の農夫として雇われたり、鐵道や道路の工夫に出たり、また都會の工場に臨時工として入ったりします。世の中が不景氣だと、そういう口もなくなるので、みな貧窮して、浮浪者の群れに加わります。なかには悪事に走る者もいます。

《兵隊志願》
  不景氣になると、兵隊にいっている若者は下士に志願する者が増えます。また護郷軍の應募者にも事缺かなくなります。なかには外國軍隊に入隊してまうものもいます。  → top


○ 都會に出た人々

《寄留者》
  田舎から出てきて都會で暮しを立てる人々は、本籍が田舎の村にあるので、都會では「寄留者」と呼ばれて、その旨の登録を區役所にします。徴兵検査も田舎の本籍地に歸って受けるのです。
  寄留者の職業は、手っ取り早くなれるのは、人足や工夫など臨時の日雇です。都會の驛でボンヤリ立っていると、ポン引きが聲を掛けてきて、そのまま飯場に連れて行ってくれます。村が特定の職業組合と結びついている場合は、その職種の徒弟や見習になれます。また有力者の紹介で、會社・工場の雇人(給仕、工員)の職にありつくこともできます。みな縁故をたよって紹介状を持って就職します。
  女中・從僕など家内使用人の數も多く、都會の生粋の住民というのは少なくて、ほとんどが田舎から出てきた寄留者で占められています。  → top


→ top

inserted by FC2 system