→top

★★被服★★vestar


軍隊被服の実際


○中隊には縫工卒(kudrul)と靴工卒(shufarul)が付属しています。縫工は腕に赤い裁鋏(たちばさみ)の印が、靴工は赤い靴釘の印があって、これが特技章です。
行軍になると、大行李の輜重車(vagon de trayneg: 4頭立て馬車または中型トラック)に便乗して、中隊の列についてきて、被服と靴の修繕をします。縫工は修繕用具(ミシン、裁台など)・用品(糸、服地など)を積み、靴工は靴修繕具(金梃など)・用品(釘、皮革、金具など)を積みます。中隊と共に行動する時は給養掛曹長の指揮下に入りますが、大行李は大隊ごとにまとまって後方にある事が多いので、その場合は大隊三等縫工長、三等靴工長(kudr maystr 3a klas, shufar maystr 3a klas: 經理部所属、伍長相当)の指揮下に入ります。純然たる技術兵なので、被服の補給(保管・交換・配給など)には携わらず、ひたすら修繕・加工をするだけです。
被服には、装具(背嚢、革帶(ベルト)、鉄帽、彈藥嚢、雜嚢、水筒、瓦斯マスク、携帯天幕、毛布、雨具など)も入るので、これらの修繕・加工もします。
部隊大行李(trayneg de regiment aw batalion)の大行李輜重車には、予備の被服が積んであります。その配給は糧秣と同じですが、あまり需要がないので、糧秣補給のように、糧秣集積所と前線の間を昼夜往復することはありません。部隊の戰闘が終わって他部隊と交代し、後方に帰ってきて給養を受ける時に、新しい被服が配給されます。前線に出ている時は、着たきり雀で、洗濯もせず、風呂にも入らないので、服も靴も破れ放題になります。部隊付の縫工長と靴工長は、それぞれ修理工場を開設して、各中隊の縫工卒と靴工卒を呼び集め、修繕作業に大忙しとなります。

兵営では、各中隊の縫工卒と靴工卒は、被服工場(内部は縫工場、靴工場に区分される)(vestarfak de regiment aw batalion)で作業をします。聯隊本部付の二等縫工長(軍曹相当)が親分で、三等縫工長、三等靴工長が、帳面つけ、納入業者とのやりとり、縫工卒、靴工卒の教育をします。各工長には、縫工手、靴工手(kudrist, shufarist、上等兵相当)が助手として付きます。聯隊には二等靴工長というのはおらず、二等縫工長が縫工・靴工の両方の面倒を見ます。
工長、工手は、みんな經理學校(lerney de intendant)の衣糧術練習所(seminarey de vestad k. kuirad)で特別に訓練を受けた職人です。旅團司令部、師團司令部、軍司令部にも、縫工長、靴工長が付属していますが、作業はせずに被服工具・材料の管理と縫工・靴工の人事管理をします。

ボロ軍服のはなし

炊事と同じく、被服も部隊の委任經理です。節約して兵隊にボロ服を着せ、余った予算で出征用の上等な軍服、装具を部隊の被服倉庫に備蓄しておくのが、部隊被服委員(佐官を首座(委員長)に、主計1名、兵科尉官数名と倉庫番の軍曹と助手、事務兵で構成)の腕の見せ所です。
ふだん、兵隊どもはボロボロに継ぎのあたった雑巾みたいな「營内服」(第三裝の丙)を来て生活します。カーキ色だった服地は、何十年も洗濯されてきたので、ほとんど白に近い色です。外出や式典の時だけ、ちゃんとカーキ色をした服(通常の外出・演習は第三裝の乙または甲、式典・大演習は第二裝)を着るのです。さすがに下士官は、いつもカーキ色の服を着ています。戦場に出かけるとなると、部隊被服倉庫から一番上等な服(第一裝)が全員に惜しげもなく支給されます。

新兵の服の寸法

入隊した新兵は、まず中隊の被服庫に連れていかれ、被服・装具の支給を受けます。被服掛軍曹と助手は、寸法にお構いなく機械的に配給してから、「寸法の合わないものは、申し出ろ」と云います。(そういうことを云わない荒っぽい中隊もあります。そういうところでは、大きい服を支給しておいて、「馬鹿もん、身体を服にあわせるんだ」と怒鳴ります。)寸法は既製服なみに特大、大、中、小、特小とあって、たいてい、なんとか身に合う寸法に交換してくれます。少年兵は、どんどん大きくなるので、いつもダブダブの服を支給されています。

洗濯

中隊には民間人の洗濯職人が付属しています。汚れた服は、洗濯代を払えば綺麗に洗って、アイロン、糊付までしてくれます。しかしお金の無い兵卒どもは、自分でゴシゴシ洗濯します。(日本軍の兵隊みたいに)
洗濯職人のお得意は專ら營内居住の下士官や、一年志願兵、士官候補生、見習士官といった、服裝にうるさい連中です。
洗濯親方が部隊に洗濯場を開き、各中隊の職人を集めて共同作業をさせます。みんな民間人ですが、特別に従軍を許された「軍属」です。親方が下士官、職人が一等卒〜上等兵、見習の徒弟が雑卒というところです。
戦場にもついていきますが、戰闘間は後方兵站地の給養部に集合して司令部の注文で作業をし、駐屯間は部隊に戻って内地と同じように中隊の注文をとります。戰闘で汚れた服の洗濯代は軍がもち、戰闘の無い駐屯地では自分持ちということです。

服裝の区分

軍服には、正装、礼装、通常礼装、軍装、略装、異裝とあります。軍直轄の軍楽隊はきらびやかな正装をします。將校も式典には正装して出ます。一昔前のナポレオン時代的な服裝で、帽子には羽根飾りがつき、聯隊ごとに伝統の意匠です。新しい部隊は全軍統一された意匠を使用しますが、古い部隊は赤服あり、青服あり、白服ありで、部隊の区別は服の色と、釦(ボタン)の数、肩章・袖章の色の組合でします。あまり複雑なので、それらを見分けるための専用の図鑑すら用意されているほどです。礼装以下はカーキ色の軍服です。礼装は社交界の夜会などに出るためのもので、勲章をさげ、野暮な長靴は履かず、武装はせず、長いズボンに普通の靴です。通常礼装は武装をし、勲章も略綬です。司令部や役所では普通この服裝になります。軍装は戰闘する時の服裝で、どのような兵器と装具をつけるかは、そのつど命令されます。例えば、「執銃帯剣、巻脚絆」と内務班長がわめくと、銃剣をつけて、小銃を持ち、脚にはゲートルを巻くことになります。「完全軍装」となれば、背嚢も鉄帽も瓦斯マスクも身につけて、いつでも、どんな遠い所にも出かけられます。略装は、營内でのボロボロ服です。異裝は、帽子の代わりに鉢巻をしたり、あまり暑いので上着無しだったり、渡河最中で裸だったりする時を指します。
民間人は軍服を着ることが許されていません。もし着ているのを見つかれば、法律違反で処罰されます。下士官兵は軍隊に在籍する時だけ軍服を着ますが、除隊して民間人に戻ると、軍服はだめです。將校は除隊しても軍服を着て平気です。終身官といって、一生涯、將校の礼遇を受けるからです。

独特の用語

陸軍で使用する被服用語には独特なものがあります。以下に代表的な例を挙げておきます。《》内は読み方

鉄帽: 防弾ヘルメット(日本軍は1930年まで「鉄兜」が制式名称でした)
略帽: 鉄帽の下に被るキャップ。正規の軍帽の代用として使用される。(日本軍は野球帽をモデルにした俗称「戦闘帽」なるものを開発中だそうです。独逸軍は昔から目庇の無い独特の略帽を使用しています。山岳兵のそれは耳覆が附いていて、折り返して頭の上に留めておけるようになっています。)
帽垂: 日射病豫防のため帽子の後ろに首まで垂らすように附けた布。《ぼうたれ》(佛軍外人部隊が常時使用しています)
正衣: 正装上着《せいい》
正袴: 正装ズボン《せいこ》
軍衣: 上着《ぐんい》
軍袴: ズボン《ぐんこ》
軍衣袴:軍服上下《ぐんいこ》
略衣: 略装上着
略袴: 略装ズボン
短袴: 乗馬ズボン
長袴: 長ズボン
外被: 雨外套《がいひ》
襦袢: シャツ《じゅはん》(「じゅばん」ではありません)
袴下: ズボンした《こした》
褌:  パンツ《ふんどし》(日本軍のは私物で、制式名称は附いていません)
軍足: 靴下
巻脚絆:ゲートル《まききゃはん》《くだけて「まっきゃはん」と云います》
革帯: 牛革のバンド《かくたい》(上着の上から締めて銃剣などを吊るす幅広のもの。ズボンのバンドではありません。軍刀を吊るすのは、別に「刀帯」と云うのがあります。)
編上靴:編上げ式の短い軍靴。《へんじょうか》(制式には操典に「あみあげぐつ」とフリガナがふってありますが、それでは女学生みたいなので、こっちの方で通用しているようです。登山靴のような丈夫なやつです。底には滑止に鉄の鋲が十七個ほど打ってあります。)
長靴: 膝の上まである長い乗馬靴。《ちょうか》(重騎兵が履く)
半長靴:膝下までの短い乗馬靴。脹脛の途中までしかないものもある。《はんちょうか》(輕騎兵・中騎兵が履く)
上靴: スリッパ《じょうか》(使用不能となった古編上靴などを加工して製作。部隊の靴工場で靴工卒が造る)
営内靴: 営内で履く短靴《えいないか》(同上)
彈藥盒: 弾薬入れのポーチ《だんやくごう》(革帯に嵌めて使用。革帯の前に嵌めるのは「前盒」、後ろのは「後盒」)
拳銃嚢: 拳銃入れのサック《けんじゅうのう》
雑嚢: 肩から斜めに掛ける大きい布製ポーチ。《ざつのう》何でも入る。戦闘間は手榴弾などを入れておく。突撃時には背嚢を後方に置いてくるので、雑嚢が無いと不便。携帯口糧、私物も入れておく。
図嚢: 革帯から吊るす長方形の革製ケース。《ずのう》地図・書類を入れる。本部付将校は、たいてい持っている。
釦: ボタン
襟布: 上着の布カラー《えりふ》
物入: ポケット《ものいれ》
手套: 手袋《しゅとう》
包布: 布団カバー《ほうふ》
被甲: 瓦斯マスク。《ひこう》(最近、日本軍は「防毒面」と云う名称を使用し始めた)  →top


inserted by FC2 system