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★★ 暮らし vivten★★ 軍人の生計
軍人の生活程度を、簡単に、シミュレートしてみます。
庶民出身の(即ち資産の無い)下士官・下級將校の生活は、皆んな、あまり変わりなく、ただ進級するにしたがって、借間が広くなったり、戸建ての貸家に移ったりします。

→營内居住の上等兵 →營外居住の曹長 →貧乏少尉 →遣繰中尉


歩兵上等兵(21歳)の小遣帳(月平均)(營内居住)(獨身)
収入 一圓

支出 九十八銭一厘

   食費 無料(部隊給與)
   菓子 六銭(一日1箇2厘)
   煙草 十八銭(一日3本六厘)
   葡萄酒 八厘(週1/10瓶:一合)
   衣服 五厘(下着、一年に一度買換え・月割金額、他は部隊給與)
   雑貨 二銭八厘(歯磨粉八厘、石鹸一銭、ちり紙五厘、燐寸五厘)
   衛生費 無料(入浴・散髪・衛生具・藥代は部隊給與)
   教養娯楽費 二十銭(映畫月1回・軍人半額五銭、外食月4回十銭、典範令等参考書五銭、文房具葉書一厘)
   光熱水費 無料(部隊給與)
   交通費 無料(部隊給與)
   社交費 五十銭(遊郭月2回・軍人半額)

貯金 一銭九厘

兵營で暮して居ると衣食住は官給なので無料です。兵卒は兵舎の狭い内務班で雑居です(炊事洗面場・厠も共同)。官給以外の日用品(下着、手拭、石鹸、洗面歯磨道具、塵紙、参考書、葉書便箋鉛筆、菓子煙草酒など)は部隊の酒保で買います。官給品を失すと兵營の門前に開業している何でも屋に行って模造品を買って間に合わせます。二年兵になると戰友になった初年兵に菓子を買って差入してやらないといけません。日曜の外出日には街に繰出して飲酒したり映畫を観たり遊郭に行ったりします。衛生具は官給です。軍人半額サービスの處が多いので割安に遊べます。中隊人事掛の命令で小遣帖をつけて剰った金銭は貯金させられます。給料を全部遣ってしまうと特務曹長に怒られて成績が悪くなります。實家が裕福だと小遣を送金して呉れます。逆に貧乏だと此方から僅かながらでも送金する兵隊が居ます。軍人にはボーナスが無い代りに税金がありません。

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歩兵曹長(29歳)の家計簿(月平均)(家族:妻、子供1)
収入 十七圓(九圓:二等給、七圓:營外居住手當、一圓:妻の内職)

支出 十六圓

   家賃 四圓(家具付、六畳一間)
   主食 七圓(黒麺麭、牛肉、豆、馬鈴薯、野菜、粗茶、塩、砂糖、酢、橄欖油)
   菓子 二十四銭(林檎または蜜柑・一日一人1箇二十四銭)
   煙草 十八銭(一日三本)
   葡萄酒 六銭(日に1/10瓶:一合)
   衣服 三十二銭三厘(木綿着物三銭三厘、縫物編み物材料七銭二厘、履物八銭三厘、靴下一銭五厘、傘十二銭、以上一年に一度買換え・月割金額)
   雑貨 九銭七厘(歯磨粉二銭五厘、石鹸三銭、白粉・外出時のみ一銭、たわし二厘、ちり紙一銭五厘、燐寸一銭五厘)
   衛生費 一圓五銭七厘(共同浴場30日分九十銭、散髪月1回十二銭、髪結半年に一度・二銭、家族薬代一銭七厘、本人薬代は部隊醫務室で貰うので無料)
   教養娯楽費 七十四銭(新聞購読料三十銭、ラヂヲ受信料二十銭、映畫・家族で月1回・二十銭、子供小遣一日一厘・月三銭)
   光熱水費 一圓六十三銭(水道二十三銭、電灯一圓二十銭、瓦斯十八銭、炭二銭)
   交通費 徒歩通勤(市電五十二銭掛かるところを節約)
   社交費 一圓三十六銭三厘(下士官集會所晝食・會食費一圓十銭、主婦小遣二十六銭三厘)

貯金 三十一銭

長い間を兵營で暮してきましたが古参曹長になると晴れて營外居住となります。しかし月給が安いので住居は借間です。商店の二階や、よくて裏店の長屋住いです(炊事洗面場・厠は共同)。軍服と軍刀など被服兵器、及び晝食は官給なので、なんとかやっていけます。軍人にはボーナスがありません。家族が増えると家計が苦しくなってきて、成績が冴えなくて何時迄たっても特務曹長に進級できない場合は現役を辞めて轉職を考えないといけません。

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歩兵少尉(21歳)の家計簿(月平均)(獨身)
収入 十八圓(營外居住:以下、将校・准士官は全て營外居住です)

支出 十八圓

   下宿 四圓(家具付、六畳一間)
   主食 二圓二十銭(黒麺麭、牛肉、豆、馬鈴薯、野菜、粗茶、塩、砂糖、酢、橄欖油)
   菓子 六銭(林檎または蜜柑・一日一箇宛六銭)
   煙草 十八銭(一日三本)
   葡萄酒 六銭(日に1/10瓶:一合)
   衣服 一圓十九銭七厘(軍服七十五銭、軍帽十二銭、襦袢袴下六銭三厘、巻脚袢六厘、靴下4足二銭、編上靴十六銭七厘、木綿普段着一銭一厘、履物二銭、傘四銭、以上一年に一度新調・月割金額)
   洗濯代 一圓七十銭(軍服月1回五十銭、襦袢袴下靴下毎日一圓二十銭)
   雑貨 九銭(歯磨粉二銭五厘、石鹸三銭、ポマード一銭一厘、たわし二厘、ちり紙五厘、燐寸一銭五厘)
   衛生費 四十二銭(共同浴場30日分三十銭、散髪月1回十二銭、薬は部隊醫務室で貰うので無料)
   教養娯楽費 六十五銭(新聞購読料三十銭、ラヂヲ受信料二十銭、映畫月2回・十銭、袖珍本1冊五銭)
   光熱水費 一圓六十三銭(水道二十三銭、電燈一圓二十銭、瓦斯十八銭、炭二銭)
   交通費 五十二銭(市電一區間往復)
   通信費 十九銭六厘(電話四銭、電報十三銭五厘、メッセンジャー五銭、筆記具一厘、インク五厘、書瀚紙・封筒五厘)
   社交費 五圓三銭四厘(将校集會所晝食・會食費五圓:三流聯隊の場合、賭博二銭七厘、名刺印刷七厘: 氏名20語・肩書54語の場合「la dua lewtenant, la unua kompani, la dua regiment de infanteri」 )

地方聯隊の貧乏少尉の例(庶民出身)です。曹長と比べると、将校准士官は被服・個人装備が自辯なので「衣服」費に随分掛かります(曹長の被服装備は官給で、家で着る普段着や寝間着などの私服以外は、いっさい、お金が掛からない)。少尉は獨身なので洗濯代も馬鹿になりません(曹長さんは女房が洗濯してくれる)。洗濯は聯隊内で開業している洗濯職人に出しますが、下着などは自分で洗います。從卒を雇う余裕がないので、身の回りの事は成るべく自分で始末するのです。平時は身の廻りの世話をして呉れる從卒を雇う餘裕がありません。戰争になって出征すると、戰地増俸で給料が倍になるので、從卒を雇えますが、内地に戻ると、また元に戻ります。
装備の軍刀や双眼鏡、拳銃などは、少尉任官時に任官支度金が二十五圓ほど出るので、それで購入します。親父から先祖傳来の軍刀を貰う者もいます。では、拳銃の彈藥は官給かと云うと、これもそうではなく私費で購入します。射撃練習に熱心だと、それだけ出費が嵩みます。彈藥代は、渡切りの出張旅費を少し残したり(食堂車に行く代わりに辯當で濟ませる)、日用の掛りを節約(風呂屋に行く回數を減らす、家では古着を着ている、自分で散髪する)して、工面します。
さて下宿の朝晩の賄い御飯は兵隊並みの粗末なものですが、土日祝日以外の晝食は将校集會所でとります。そこでは兵食の倍くらいは上等なものを食べさせる為、集会所の會費に大變お金が掛ります。けれど、これは歴史の浅い、名も無い地方聯隊での相場です。
上流階級出身者が好んで入隊する傳統ある一流部隊になると、少尉の俸給では賄えない額となります。そういう處では資産を持つ親から援助を受けないとやっていけないので、財産の無い庶民出身者はそういう部隊に配属希望が出せず、また陸軍省人事課でも配属させない不文律があります。では、そのようなエリート部隊の中の庶民出身の特別進級将校(准尉から中尉になった者、特務曹長や曹長から少尉になった者)、准士官(准尉、特務曹長)、や各部将校准士官相當官(經理、衛生など)は、将校集會所の會費をどうするかと云えば、聯隊将校團の基金から補助金が拠出され、本人は格安の兵食並みの料金にまけてもらえます。従って、そういう人々は遠慮して餘り會食に出席せず、送別會や歓迎會、聯隊創設記念日などに顔を出す程度となります。准士官は下士官集會所で、また特進将校、各部将校は自分の事務室で兵食を取寄せて晝食を摂ります。これは勿論官給ではなく、ちゃんと炊事で傳票を起こして給料天引となっています。

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歩兵中尉(26歳)の家計簿(月平均)(妻、子供1)
収入 二十五圓(一等給)

支出 二十五圓

   下宿 四圓三十銭(家具付、六畳二間)
   主食 六圓六十銭(黒麺麭、牛肉、豆、馬鈴薯、野菜、粗茶、塩、砂糖、酢、橄欖油)
   菓子 十八銭五厘(林檎または蜜柑・一日一箇宛六銭、アイスクリーム大箱六銭、カラメル二銭五厘、炭酸水四銭)
   煙草 十八銭(一日三本)
   葡萄酒 六銭(日に1/10瓶:一合)
   紅茶・角砂糖 八十八銭七厘
   蜂蜜 二銭
   衣服(本人) 一圓十九銭七厘(軍服七十五銭、軍帽十二銭、襦袢袴下六銭三厘、巻脚袢六厘、靴下4足二銭、編上靴十六銭七厘、木綿普段着一銭一厘、履物二銭、傘四銭、以上一年に一度新調・月割金額)
   衣服(家族) 二十九銭四厘(木綿普段着二銭二厘、よそゆき三銭二厘、縫物・編み物材料七銭二厘、履物四銭、傘八銭、靴下4足二銭、長靴下4足二銭八厘)
   洗濯代 五十銭(軍服月1回五十銭)
   雑貨 二十銭三厘(歯磨粉二銭五厘、石鹸九銭、化粧石鹸二銭五輪、白粉(外出時のみ)二銭、ポマード一銭一厘、たわし二厘、ちり紙一銭五厘、燐寸一銭五厘)
   衛生費 一圓六十五銭七厘(共同浴場30日分九十銭、散髪月1回二十四銭、髪結月1回五十銭、家族藥代一銭七厘、本人藥代は部隊醫務室で貰うので無料)
   教養娯楽費 八十三銭(新聞購読料三十銭、ラヂヲ受信料二十銭、映畫月2回・四十銭、袖珍本2冊十銭、子供小遣一日一厘・月三銭)
   光熱水費 一圓六十三銭(水道二十三銭、電灯一圓二十銭、瓦斯十八銭、炭二銭)
   交通費 五十二銭(市電一區間往復)
   通信費 十七銭一厘(電話四銭、電報十三銭五厘、メッセンジャー五銭、筆記具一厘、インク五厘、書瀚紙・封筒五厘)
   社交費 六圓七厘(将校集會所晝食・會食費五圓:三流聯隊の場合、名刺印刷七厘: 氏名20語・肩書54語の場合「la unua lewtenant, la dua kompani, la tria regiment de infanteri」、妻小遣一圓 )
貯金 四圓五十銭九厘
遣繰り中尉の例です。結婚して子供が出来ると日用の掛りも増えますが俸給も増えるので、贅澤しなければ何とか遣繰り算段して暮らせます。貯金も十分にしなければならず、これは子供の教育費や家族が病氣した時の療養費に充てます。

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