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動員と補充の方法(歩兵聯隊の例)

→ 動員
→ 補充

★★ 動員 ★★

【動員の種類と準備期間】
一口に動員と云っても、幾つか種類があり、準備に要する期間にも相違があります。

《警急動員》
取急ぎ軍隊を派遣する必要が起こった場合、例えば國境侵犯阻止や叛亂鎮壓などでは、兵營にある員數を掻集めて戰闘に耐える形に編成し、準備が整い次第直ちに出動する必要があります。兵營の中は内務班編成のままなので、中隊指揮班ではこれを分隊・小隊に區分し、それぞれ隊長を指定し、装備・兵器を支給し、隊伍を整えます。もともと分隊や小隊は平時にはなくて、兵隊はただ數箇の内務班に編成されているだけですが、出動時には正規の戰闘編成となります。この準備は8時間以内に行うものとされています。もちろん早ければそれに越したことはありません。

《應急動員》
強力な軍隊を投入するような規模の大きい紛争が起きた場合は、外出者や營外居住者も呼び戻し、補給物資を積載した行李(輸送隊)を用意して、3日間以内に出動できるようにします。

《本動員》
外征軍に加わったり、大演習に参加する場合は、本格的な動員となります。聯隊本部の動員室が、歸休兵や豫後備役で除隊していた兵隊に召集をかけ、部隊は完全編成となります。經理室では戰場に持っていく糧秣・被服を梱包し、兵器室は彈藥を整え、格納してあった豫備兵器を倉庫から出してきてグリースを拭いとって中隊に支給します。留守部隊や臨時部隊も編成され、員數は膨れ上がり、兵營の中は蜂の巣をつついたようになります。出征部隊が隊伍を整え軍旗を先頭に營門を威風堂々出陣するまでには、2〜3週間の準備期間が必要とされています。

【出征部隊】
動員令が下ると、出征する歩兵聯隊は戰時編成となって、兵数が2倍になります。
幹部のうち将校准士官は平時より戰時編成の定數を満たすだけの人数を現役で揃えてあります。ただ本部要員や上級司令部の戰時増員分や、戰地の補充兵教育隊などに分遣となる幹部が増えるので、その不足分は豫備役の在郷軍人を召集します。
幹部のうち下士は戰時編成の分隊長要員の半分しか現役を揃えていませんので、豫備役のうち現役満期時に下士適任証書を得た應召上等兵が、志願にあらざる下士(豫備役伍長)に任官して、分隊長となります。 兵卒の1/4は現役二年兵全員を充て、残る3/4は豫備役(第1〜4年目)を充員召集します。
何故豫備役を1年分よけいに召集するのかと云うと、平時の部隊は節約して4箇中隊のうち1箇を缺にしてある為、此れの充員用です。更に各級本部・司令部・戰地補充兵教育隊などの充員分として聯隊から分遣する下士卒と、兵營で初年兵教育や留守業務に従事する下士卒が出征部隊から抜け、戦役豫備役を問わず出征部隊要員に事故(傷病や軍學校派遣・特業修業など教育のため從軍不能など)がでるので、その缺員補充のために豫備役の第4年目まで召集するのです。
聯隊動員室において平時から将校以下兵卒に至るまで全員の戰時命課(出征部隊に於ける任務割當)が現役・豫備役ともに綿密に決められています。これにより出征部隊が勢揃いします。

【留守部隊】
本隊を聯隊長が率いて出征すると、衛戍地の兵營には留守隊が編成され、留守隊長が平時と同じく衛戍地警備と徴募兵・應召兵の教育に当り、また出征部隊のための兵站始地(内地と戰地を結ぶ兵站線路の内地出發點)として、留守業務(物資・兵員の補充、恤兵その他)を行います。
初年兵は全員が留守隊に残留して初年兵教育を續けます。(二年兵になると出征部隊の交代要員として戰地に赴き、新しく徴兵された新兵が留守隊に入營してきます。現役満期となった三年兵は豫備役に編入され内地に帰還しますが、戰争が長引いている場合は、現役満期即日召集となって、そのまま同じ隊で變らず軍務に就くことになります。終戰となっていても占領地守備隊に再召集されたりしますので、なかなか帰還できません。)
留守隊は現役兵の他に、必要に応じて未教育の應召兵を受入れ、教育します。
さらに戰地からの帰還兵や残留事故兵(傷病恢復者、病弱者、出獄者、帰休者など)も留守隊に待機して、次の命令を待ちます。
内地残留要員の現役兵や應召豫備役兵(第4年目)が教育と留守業務の基幹要員として働きます。
留守隊は文字通り、聯隊の留守番役です。

【補充兵教育隊】
戰地における軍司令部は、出征部隊の損害を即時に埋めるため、軍兵站管區に「補充兵教育隊」(聯隊規模)を編成し、補習教育と兵站管區警備を兼ねて戰線後方に待機させます。特定の聯隊の補充要員は特定の中隊に集めてあります。例えば歩兵第1聯隊の補充要員は、軍補充兵教育隊第1中隊に編成され、他の聯隊の補充要員を受入れることはありません。
また補充兵教育隊には、事故兵(戰地で恢復した退院者など)も受入れます。
補充兵教育隊は戰時編成で兵器も前線部隊と同じなので、隊員の補習教育と同時に討伐に出て實戰を演じる事もあります。また前線の兵力が不足した場合は、第一線に投入されます。
補充兵教育隊は驛の待合室のようなものですが、實力は前線部隊と同じで、軍の總豫備の(前線部隊の背後に控え、前線の補強に使用する兵力。通常は大兵力を用意し、前線崩壊が起きても、總豫備を投入して持ちこたえ、更に逆襲に出る際に使用する)一部を構成しています。

【聯隊で編成を擔任する戰時部隊】
軍司令部より割當てられた臨時編成の獨立歩兵部隊・後備部隊・國民兵部隊を聯隊で編成します。その要員として大量の應召兵が補充隊の空き兵舎に同居します。兵舎が足りない場合は、兵營近所の學校・教會・屋敷などに分屯し、また郊外の荒地に幕營することもあります。これらの部隊が編成完結した後に出た欠員の補充は留守隊の兵を轉属させて出します。
これらの部隊は幹部は豫備役を主とし、兵卒は後備役・補充兵役・國民兵役の應召者で編成します。  → top


★★ 補充 ★★

【補充概念圖】

出征聯隊←補充兵教育隊(戰地)←留守隊(内地)←動員當初:既教育現役・豫備役(第1〜4年目)・第1補充兵役

後備歩兵聯隊←補充兵教育隊(戰地)←留守隊(内地)←動員當初:後備兵役(第1〜4年目)・補充兵役

獨立歩兵大隊←補充兵教育隊(戰地)←留守隊(内地)←動員當初:後備兵役(第5〜8年目)・補充兵役

國民歩兵聯隊←留守隊(内地)←動員當初:第1國民兵役・義勇兵

【出征部隊の兵員構成】
出征当初は、幹部(将校准士官下士)全員が現役と應召豫備役からなり、兵卒は現役二年兵(約1/4)と應召豫備役兵(約3/4)からなっています。
損害が出ると、直近下位者が缺員となった職務を代理します。損害が定員の1割に達すれば、兵站管區の補充兵教育隊より直ちに補充されます。損害補充が繰返されていくうちに、現役の定員に占める比率は降下し、幹部は豫後備役が、兵卒は應召補充兵役が増加していきます。
殊に初級将校の損耗が激しいため、戰況が進むにつれて小隊長は殆んどが一年志願兵出身の豫備役や下士より任官した特別進級将校によって占められるようになります。更に特務曹長や曹長が小隊長に就くこともあります。士官學校出身者は司令部や本部の職務に就くことが多く、また實役停年名簿の上位に位置づけられ進級が早いので、小隊長職に就く期間が短く、第一線ではあまり見かけません。
内地の軍管區に臨時豫備士官學校が編成され、現役兵のうち適格者はここで初級将校教育をうけた後、直ちに戰地の補充兵教育隊幹部となり、缺員が生じ次第、前線部隊に赴任します。
兵卒においては、現役・豫後備役の比率は常に高く、むしろ補充兵の損害が多出します。これは補充兵の教育期間が最長3ヶ月、最短2週間と短いため、また體力が現役(全員が徴兵檢査甲種合格者)に較べ劣る(乙種合格者が主体)ので、出征して前線に出るとたちまち損耗するためです。補充兵のうち數度の戰闘を經てなお運良く生存している兵はたちまち經驗豊富となるので、現役豫後備役なみの生存率に達します。
前線部隊は、強力な戰闘能力と生存能力を持つ經驗豊富な歴戦の勇士を核として、損耗交代の激しい新参補充員から構成されていて、前者の顔ぶれは餘り變わらずに、後者の顔ぶれのみが戰闘ある度にめまぐるしく交代していくと云う状態となります。

【補充兵教育隊の兵員構成】
現役は稀で、ほとんが豫後備役幹部と補充兵役の兵卒から構成されています。例外的に現役豫後備役の教育要員や待機要員(傷病恢復者など)が加わることもあります。
ひとつの聯隊に就きひとつの補充中隊が割當てられているので、補充兵教育隊の各中隊は聯隊區が異なっています。聯隊區の持つ補充兵力を他の聯隊區に流用することは軍直轄部隊以外にはできないので、中隊ごとに兵員の構成は違っています。各聯隊の損耗度がその儘、補充兵教育隊の各中隊の兵員構成に反映されます。戰況が逼迫して損耗が激しくなると、國民兵役應召者が混じることもあります。

【獨立歩兵大隊の兵員構成】
聯隊が編成を擔任する戰時出征部隊には、軍の豫備兵力および占領地守備兵力としての獨立混成旅團があります。この旅團は5箇歩兵大隊と特科兵力で編成され、その1箇歩兵大隊の編成と補充・留守業務を聯隊が擔任します。
幹部を除き、兵卒には後備役應召者(第1〜4年目)が充てられ、損耗は他部隊よりの転属兵によって埋められます。他部隊は成績不良の兵を転属させてくるので、隊の實力士気は第1線部隊に比べて劣ります。あまり前線に出ず、後方に分散駐屯して守備に任じます。住民の抵抗が激しい占領地では、討伐・巡邏に明暮れ、じわじわと損耗していきます。前線兵力不足により第一線豫備兵力として戰闘に加入する事もありますが、經驗薄弱であり、また兵の素質が劣るため甚大な損耗を出す傾向があります。

【後備歩兵聯隊の兵員構成】
聯隊が編成を擔任する戰時出征部隊には、軍の豫備兵力および兵站管區守備兵力としての後備歩兵聯隊があります。
戰地の軍兵站管區守備用に後備聯隊が編成されます。聯隊がその後備聯隊を編成します。兵站線路が延びるに伴ない、その守備に必要なだけの後備聯隊が各聯隊から1箇宛逐次編成されていきます。
幹部を除き、兵卒には後備役應召者(現役除隊後5〜8年目)が充てられ、損耗は補充兵によって埋めます。
老齢のため兵の素質が劣るので専ら後方警備に當てられ、一線に出ることは餘りありません。戰況逼迫により前線に出動すれば、強力な敵の猛攻を受け壊走・壊滅する可能性があります。

【國民兵聯隊の兵員構成】
聯隊が編成を擔任する戰時部隊には、要地・要塞守備兵力としての國民歩兵聯隊があります。
1箇要塞に就き1箇國民歩兵聯隊が編成されます。また要地(鉱山・工業地帯など)にも必要に應じて配置されます。聯隊の属する軍管區に要塞・要地が多い場合は、他の聯隊との混成で國民歩兵聯隊を編成します。そのさいはなるべく國民兵聯隊の中隊や大隊を自分の聯隊と對應させるようにします。
幹部兵卒ともに第一國民兵役應召者が充てられます。不足分・損耗分は第二國民兵役應召者によって埋めます。兵役に該当しない志願者(免役者:兵役を終了した老人、兵役前の少年、婦女子、免役者(障碍者・受刑者など)、交戰國以外の外國人など)も義勇兵として志願できます。
要塞地帯・要地の警備にあてられ、外征することはありません。敵軍が侵攻してきた場合は、徹底抗戰することを求められますが、その時は全滅を覚悟します。

【護郷軍】
護郷軍部隊の将兵も正規軍に應召します。そのため戰時には櫛の歯が缺けるように員數が減ってしまいます。護郷軍は原則として外征には参加しないので、人氣の無い部隊では戰時には兵役不適格者や傷痍軍人、外國人ばかりになったりします。
戰況逼迫により出征することも稀にありますが、装備・素質ともに貧弱なため後方警備に充てられます。


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