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野戰憲兵の部隊編成を解説します。

  →伍 kunular, team
  →派遣所 standey, stand
  →分駐所 branchey, branch
  →分遣隊 detachiment, detachment
  →分隊 sekci, section
  →隊 kamp gendarmeri, field gendarmerie 


★★憲兵部隊編成★★

動員になると既存の憲兵の他に、各出征軍直轄の「野戰憲兵隊」が編成されます。輕騎兵聯隊に準じた編成で、6箇中隊分が標準です。隊として纏まって作戰行動する事がなく、各級高等司令部や占領地の要所に分散配置されます。占領地が擴大すると、軍政の警察兵力として新たに臨時の憲兵隊が編成されます。
編成區分は一般の部隊とは異なり、大隊・中隊・小隊がありません。隊は本部と幾つかの分隊に分割し、各分隊は軍の活動範囲にある要地(高等司令部所在地、主要都市、交通要衝、兵站拠點など)に駐屯します。「分隊」と云っても、これは「大隊」ないし「中隊」に相當するもので、分隊数も定員も担当する區域により變化します。分隊は、民間の警察署に該當します。憲兵は自分の補給組織を持たず、配属先の直近司令部に依存します。例えば憲兵隊本部の主計や軍醫は、固有の編成定員に含まれておらず、軍司令部から派遣されてきます。
分隊の担当區域内で重要な地點があれば、そこに「分遣隊」を置きます。分隊の規模をひと廻り小さくしたミニ分隊で、警察分署に該當します。分隊も分遣隊も、主要駐屯地や交通要衝には「分駐所」(駐在所のようなもの)を置き、さらに必要あれば「派遣所」(交番のようなもの)を配置します。部隊で事件が起これば、ここから憲兵がサイドカーですぐに馳けつけます。また巡邏(パトロール)はもとより交通整理や警衛の拠點としても使います。
以上の分隊・分遣隊・分駐所・派遣所は番號を付けず、それぞれ所在する地名を冠して呼びます。
通常の分隊の他に、交通整理を専門とする機動分隊や、捕虜・監獄の警備をする分隊があります。
兵員が不足する場合は、獵兵、輕騎兵、海兵を補助憲兵として使用します。また捕虜の収容・護送には兵站地區の警備歩兵を補助憲兵とします。補助憲兵には警察権はありません。憲兵将校准士官付の馬卒・從卒は獸醫部・經理部所属の雑卒で、憲兵でも補助憲兵でもありません。この他に隊本部事務室には事務補助要員として軍属が雇われる事があります。
編成例に示した分課は各憲兵司令官が決定するので、隊の實状に合わせて變化します。野戰憲兵は國軍總司令官の「軍令」(野戰憲兵隊勤務令)に拠って編成され、戰地にある所属軍司令官の命令に従うので、「軍令憲兵」と呼ばれます。これに対し平時から常置されている内外地の憲兵隊は國家元首の「勅令」(憲兵條例)に拠って編成され、陸軍大臣の命令に従うので、「勅令憲兵」と呼ばれ、野戰憲兵とは命令系統、權限、勤務などが違っています。しかし、いずれの憲兵も、軍人だけではなく民間人を取締り逮捕できますから、その權限は警察と變わるところがありません。平時でも邊境では警察力が都市部にしか及ばないので、駐屯軍の憲兵隊が機動力を生かして實質上の警察業務をこなしている場合すらあります。占領地ではなおさらです。


編成例:

隊本部(庶務班、警務班、高等班)
  A分隊本部(庶務掛、警務掛、高等掛)
      G分駐所
        H派遣所
        I派遣所
    J分遣隊: 
      K分駐所
        L派遣所
  B分隊
  C分隊
  D分隊
  交通分隊
  監視分隊
    捕虜収容所分遣隊
    法務部分遣隊(軍法會議警査勤務、囚禁場看守勤務)
    給養部分遣隊(娼館監視勤務)


軍装
(輕騎兵と同じ軍装です。二輪自働車(オートバイ)もしくは側車附二輪自働車(サイドカー)で移動するので、兵卒といえども、帯刀・拳銃携帯・長靴でスマートです。小銃は持ちません。軍の警察官なので、捕縄・手錠・憲兵手牒を携帯します。腕には憲兵腕章を巻いていますが、補助憲兵も同じく腕章を巻いて現在、憲兵業務に從事していることを明示します。腕章は正規と補助とでは文字色ないし地色が違っており、それで區別します。もっとも軍によってデザインは違いますが。補助憲兵は所属兵科の軍装です。)
☆伍(5名)kunular, team→ top

憲兵5(伍長勤務上等兵、上等兵4)
[車輌]
側車附二輪自働車、二輪自働車4

憲兵は野戰交通の整理も任務なので、オートバイで迅速に機動します。サイドカーは指揮官や被疑者を乗せるので、必要です。


【派遣所】(6名程度)standey, stand
派遣所長(伍長ないし伍長勤務上等兵)
勤務憲兵(1伍以内)
[車輌]
小形乗用自働車(以下、勤務憲兵の移動手段は前記「伍」に準ずるので、記述を省略する)
【分駐所】(14名程度)branchey, branch → top

分駐所長(特務曹長)、傳令手(上等兵)、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
勤務憲兵(2伍以内)
[車輌]
中形乗用自働車(所長用)、側車付二輪自働車(所長用)、二輪自働車(傳令用)→ top

《分駐所長》branchey chef, branch chief (憲兵特務曹長) 聯隊規模以上の部隊駐屯地ないし交通の要衝に駐在します。民間警察で云えば、大きな巡査駐在所ないし警部補派出所に該當します。ここから更に大隊規模の獨立部隊や遠隔地の交通要地に憲兵派遣所(交番のようなもの)を幾つか出します。→ top


【分遣隊】(30名程度)detachiment, detachment→ top

分遣隊長(中尉、少尉、准尉のいずれか)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
庶務掛(軍曹)、傳令手
警務掛(伍長)、傳令手
高等掛(伍長)、傳令手
勤務憲兵(4伍以内)
[車輌]
小型乗用自働車3(各掛用)、中形乗用自働車(隊長用)、側車付二輪自働車(隊長用)、二輪自働車4(傳令用)

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《分遣隊長》detachiment chef, detachment chief(憲兵中尉・少尉・准尉) 獨立兵團司令部所在地ないし野戰交通の要衝となる町村・港湾・飛行場に駐在して、小規模ながら分隊と同じ働きをします。普通の警察で云えば分署のようなものです。→ top


☆分隊(250名程度)sekci, section → top
【分隊本部】(38名程度)
分隊長(大尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
庶務掛(特務曹長)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
給養掛(曹長)、傳令手
警務掛(中尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
高等掛(少尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
本部勤務憲兵(4伍以内)
[車輌]
小型乗用自働車4(各掛用)、中形乗用自働車2(隊長・特務曹長用)、側車付二輪自働車(隊長・特務曹長用)、二輪自働車5(傳令用)

《分隊長》sekci chef, section commander (憲兵大尉) 師團司令部、軍兵站監部の所在地、ないし都市に駐屯し、軍事警察および一般の司法・行政(民間衛生・消防・勞働・商工業保安・出入國管理等)・高等(思想)警察を實施します。憲兵は軍事警察ばかりでなく、普通の警察の仕事も兼ねますから、軍政下の占領地住民にも憲兵の警察権が及びます。憲兵分隊は警察活動の直接の實行機關で、分隊長は警察署長のようなものです。

《庶務掛》(憲兵特務曹長) 分隊の下士卒の人事・功績・教育、命令受領、書簡發受など定例庶務の他、分隊長の補佐役として隊務を取り仕切ります。毎朝、點呼を取って、整列した在隊憲兵の軍装、憲兵手帳、拳銃、捕縄・手錠を檢査します。一般兵科の兵卒から志願して憲兵となり、長い年月をかけて累進してきたので、憲兵将校より實力があり、こと兵隊の事件に關しては鋭い推理力を働かせて捜査を指揮し、解決に持ち込みます。→ top

《給養掛》(憲兵曹長) 分隊の經理(被服・糧秣・陣營具を含む)、兵器(車輌を含む)の面倒を見ます。憲兵分隊は師團レベル以上の高等司令部の近隣に設營するので、高等司令部の附属行李から軍需品の交付を受け、また食事も司令部ないし附属他部隊の炊事車から配給を受けます。従って分隊自前の行李車輌も無く、隊舎内に簡單な倉庫室を設けて、當面必要な兵器・被服・その他物品を収納してあるだけです。給養業務に必要な助手や使役兵は、最寄りの部隊から補助憲兵として臨時配属された他兵科・他部の兵員を充てます。また民間人を雇い軍属として使用することもあります。要員も行李車輌も糧食も、必要なものは総て高等司令部や他部隊から借りてくると云うのが原則です。 → top

《警務掛》(憲兵中尉) 制服憲兵を指揮して、巡察(パトロール)、野戰交通整理、警衛などの定例業務を實行します。野戰憲兵は野戰交通の管制に最も力を入れるので、兵站線路上の主要な交差點には必ず憲兵が出張して、交通整理をします。また線路上をオートバイで巡回します。事件捜査の指揮もします。現行犯を除いては、事件のあった部隊から通報があって初めて乗出します。一般部隊では犯罪兵を出すと幹部の成績に響くので、なるべく内輪で解決してしまう傾向があります。部隊長も懲罰権限を持っているので、非行兵を憲兵の手に渡さずに部隊の營倉に入れてしまったりします。警務掛では刑事巡査に該當する私服憲兵もいます。脱走兵の出没しそうな場所(驛・港など)を日頃から見張ったり、軍装ではやりずらい隠密捜査に従事します。この他、占領地域の民間警察の代用もします。民間で云う消防、衛生、勞働、工場保安、諸營業許可、出入国管理など、行政警察です。しかし野戰地域は住民も避難して無人地帯となっているので、そんなに仕事量はありません。また後方の占領地はその地の慣習法や習俗を熟知した既存の民間警察および役所を下請に使用するので、あまり問題はありません。 → top

《高等掛》(憲兵少尉) 高等と云うのは行政警察から分岐して一部門となった、政治結社監視を任務とする「政治」警察のことで、そのなかから特に極左・極右の政治結社を監視する「思想」警察部門を「特別高等警察」と呼びます。軍人が政治に關與する事は禁じられているので、憲兵は軍隊における政治・思想の中立を保つために、高等警察部門を設けています。それで戰地でも、高等掛は厭戰思想や反軍思想が兵士の間に廣っていないか常に内偵しています。民間人を装って酒場で兵士の本音、特に應召兵のそれをインタビウしたり、流言蜚語を収集して隊本部に報告します。出回っている本や雑誌、映畫・演劇・歌謡・報道は全て檢閲します。また外事警察も擔當し、対戰國以外の外國人も、主要人物に對しては尾行をつけて、スパイ行為に關っていないかを監視します。極端な例になると護衛と云う形で常に私服憲兵が付き添っている大物もいます。さらに防諜・諜報・謀略部門を設け、参謀本部情報部および軍司令部情報参謀に協力します。高等掛は、スパイの摘發、敵の謀略豫防に最も優秀な私服憲兵を配置し、最新の科學装備を備えています。例えば、電波探知機を使って敵の暗號電波發信源を探知し、スパイの隠れ場所を突き止めて摘發します。諜報・謀略部門では、大勢の民間スパイを豊富な軍資金で雇用します。敵の軍事機密を盗み出し、謀略を仕掛け、流言を撒き散らし、偽貨幣を流通させ、軍用列車を轉覆させ、要人暗殺、施設爆破など、ありとあらゆる工作を試みます。このように高等掛と云っても、實態は政治・外事・軍事情報の各部門を含む廣範囲な活動を展開しています。  → top


☆野戰憲兵隊(1,560名以内)kamp gendarmeri, field gendarmerie

【隊本部】(60名) → top

隊長(大佐)、傳令卒、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
[車輌]
中形乗用自働車(隊長用)、側車付二輪自働車(隊長用)、二輪自働車(傳令用)

 《庶務班》(6名)
副官(大尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  書記2(曹長)、傳令手
[車輌]
中形乗用自働車(副官用)、小形乗用自働車(書記用)、側車付二輪自働車2(副官用)、二輪自働車(傳令用)

 《警務班》(30名)
警務班長(中佐)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  書記2(曹長)、傳令手
司法掛(大尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  書記2(曹長)、傳令手
警務掛(中尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  警務主任(曹長)、傳令手
  行政主任(曹長)
  警衛主任(軍曹)
交通掛(少尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  道路主任(曹長)、傳令手
  鐵道主任(曹長)
  軍港要塞主任(軍曹)
  飛行場主任(軍曹)
[車輌]
中形乗用自働車4(班長・各掛用)、小形乗用自働車9(書記・各主任用)、側車付二輪自働車4(将校准士官用)、二輪自働車4(傳令用)

 《高等班》(20名)
高等班長(少佐)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
保安掛(大尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  保安主任(曹長)、傳令手
  檢閲主任(曹長)
  外事主任(軍曹)
防諜掛(中尉)、傳令手、馬卒(獸醫部員)、從卒(經理部員)
  防諜主任(曹長)、傳令手
  傍受主任(曹長)
  特務主任(軍曹)
本部勤務憲兵(高等班特別勤務者を含む)
[車輌]
中形乗用自働車3(班長・各掛用)、小形乗用自働車6(各主任用)、側車付二輪自働車3(将校准士官用)、二輪自働車3(傳令用)

【第1〜6分隊】(1,500名以内)→ top

《隊長》 chef de kamp gendarmeri, field gendarmerie commander(憲兵大佐) 軍司令部所在地に隊本部を設け、軍の管轄區域の軍事・司法・行政(高等・外事を含む)の諸警察を管理します。普通の警察で云えば縣警察部長のようなものです。占領地に樹立された友好政権の持つ民間警察を補助機關として使用します。野戰憲兵の最も重要な任務は野戰交通の管制で、憲兵隊長は兵站線上を諸車輌が円滑に運行できるよう、また迅速な行軍が可能となるよう、隊員を要所に派遣して交通線を統制します。補助憲兵として他兵科の部隊を臨時に指揮下に組入れることがあり、軍が移動する時は乗馬獵兵部隊を、また作戰後の戰場整理や占領地軍政開始時には、兵站警備兵力の一部を捕虜護送や占領地警備に使用します。(戰地以外の勅令憲兵は、補助憲兵を部隊として指名はせずに各箇の兵員名にて指名します。)隊本部には憲兵は幹部しかおらず、軍属の書記を使って専ら訴追資料や報告書の作成に従事しており、實際の活動は憲兵分隊が實行します。例外は防諜掛で、特殊勤務の私服憲兵が大勢揃っています。殆どが、どこかに潜入したり、別に秘密拠點を作っていて、本部には寄り付きません。各憲兵が豊富な軍資金を以て多くの民間人を協力者と云う名義で雇用し複雑な秘密地下組織を形成しています。とくに占領地の憲兵隊長は、諜報・防諜活動に熱心です。→ top


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