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軍隊經理を解説します。


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★★經理★★


經理

【軍資金】
聯合共和國の陸軍豫算は國務院の豫算局が陸軍省と協議して決めます。陸軍省は部内で積算した豫算請求案を纏め、國務院がこれを審査して、無駄なものを減らし、必要なものを増額したりして細かく用途と額を決めた豫算案を組みます。豫算案は庶民院と貴族院の審議にかけられ其々の豫算委員會で更に修正を加えられて可決されます。決定された豫算は財務省の金庫から中央銀行たるレミニア銀行に振込まれ、陸軍省經理局がその預金を陸軍の各經理單位に分配し、各單位よりの經理報告と随時の經理監査によりその出納状況を把握します。また會計檢査院も随時の經理檢査を行います。豫算年度の終りには決算を行い、これを國務院、庶民院、貴族院に報告します。
戰時には特別豫算が組まれ、通常の豫算以外の國家資金から軍資金が支出されます。
陸軍の各經理單位は原則として委任經理となっており、豫算を配分された機關は軍資金の使い方を自分で工夫できるようになっています。節約して余剰の資金を貯め、これを有意義に使ったり、重点的に使用したりします。例えば、部隊では耐用年數の切れた被服を修繕して使ったり、拂下げたりして、その節約した分を聯隊の軍旗祭の資金にするとか、祭日の加給食に使うとかします。さすがに給料は節約できませんが、經理委員首座の腕ひとつで、部隊によってボロ服を着ているけれど食事は良いとか、その逆とか、いろいろ特徴がでます。
部隊では部隊長が經理委員を任命して、これに部隊の委任經理を運用させます。經理部員がこれを補佐して、帳簿や計算、金銭物品の出納保管を行います。經理委員首座は顔の利く兵科古参将校(中少佐級)がなり、その監督下に他の經理委員(兵科将校)、算盤勘定の専門家である經理部員(主計)が金銭、糧秣、被服の面倒を見ます。經理・被服・炊事・營繕等の特技兵と事務補助・倉庫監守の兵科兵が附属し、各中隊から使役兵が出て補助します。

★★糧秣★★ proviz kay furagh, provisions & fodder


軍隊食の実際

【炊事要員】
中隊には炊事手(kuirist)が付属しています。腕にV字の等級章を付けているので、上等兵相当です。等級章が兵科色(歩兵は赤)ではなく、灰色なのは經理部(department de intendant, department of paymaster)所属だからです。(經理部の定色は灰色)V字の上方にはフォークの印があって、これが炊事の特技章です。

【炊事車】
行軍になると。炊事車(kuirvagon, cooking wagon: 4頭立て馬車または中型トラック)を運轉して、中隊の列についてきて、300人分の材料が一度に入る大釜2箇(戰時編成の歩兵中隊は通常250人ですが、臨時に配属される他兵科の人數を見越して、300人用になっています)でスープを煮たり、熱い珈琲ないし茶を配給します。炊事手には、助手に兵科の一等卒1名(炊事卒)と、運轉手の輜重輸卒と運轉助手の輜重助卒が1名づつ付きます。輸卒と助卒は駐車間は給水や材料の積卸、配給など炊事の手傳をします。このあわせて4名で中隊の食事の面倒を見ます。このほかにジャガイモの皮剥などの作業は、中隊から臨時に當番を抽出して使います。これは一種の懲罰としてヘマをした兵隊が出されることが多いようです。

【野戰メニュウ】
行軍間は、半斤ほどある麺麭に、燻製肉と乾燥豆のごった煮、煮沸したお茶(或いは珈琲・物資不足の折は炒った黒豆で代用)が傳統のメニューです。部隊が何食分を携行していくかは、作戰命令によって決められます。しかし兵士一人分の食べる材料の量と回數は給與規則で定まっており、戰闘でやむをえない場合を除いて、きちんと配給されます。これは給料と同じと看做されており、量や回數が足りないと士氣が落ちる遠因になります。行軍開始時に中隊の兵士は當日の麺麭を纏めて配給され、茶ないし珈琲を自分の水筒に詰めます。小休止(行軍一時間ごとに15〜20分)には茶と珈琲の補充があり、また大休止(食事ごとに60〜30分)になると飯盒にスープやごった煮を貰います。日にちを決めて定期的に嗜好品(煙草・酒・菓子)も配給されます。煙草を吸わない兵は、物々交換の貨幣かわりに使用します。戰場はストレスが大きいので、酒は氣散じに、たいていの兵が呑んでしまいます。罐入りの強い火酒(蒸留酒)ですが、これは負傷した時の消毒藥や氣付藥がわりにもなります。

【携帯口糧、略奪】
戰闘になると、炊事車は後方に下がってしまうので、各小隊から食事當番が出て、バケツに食事を入れて運んでくるか、或いは自炊となります。激しい戰闘になると、小行李の輸送車に彈藥と共に載せてある携帯口糧(乾麺麭、罐詰、油紙に包んだ燻製ないし塩漬乾肉と粉酪乳、固形肉汁、銀紙包の煙草と燐寸、乾燥果實、飴、固形茶、固形塩、浄水劑、營養劑)の包箱だけになります。一人一食分の小箱を纏めて大箱に詰め込んであり、一個分隊が一日に食べるだけあります。これは部隊長の命令がないと勝手に食べられません。それも途切れがちになると、敵の陣地を占領したついでに食糧を奪取します。昔は「略奪を許す」という命令まであったくらいです。(今は戰争条約で表面は禁止されています。)敵國の領土内では、「現地徴發」と称し、将校の指揮のもとに民間人の商店、倉庫、畑や家畜小屋に押入って、有無を云わさずあらいざらい持っていきます。代金に軍票(戰地で紙幣の代わりに軍が発行する)や代金引換の證書を置いていくのですが、敵國人にとってはほとんど無価値です。

【壓縮携帯口糧】
新しい試みとして糧秣厰では携帯口糧の中身をより輕量に扱い易くした試作品を供給しています。携帯口糧の配給すら滞りがちな最前線で代用食として空腹を満たす為に、彈藥と共に纏めて數日分を受取ります。偵察・監視・哨兵などの勤務は少人數で本隊から遠く離れ往復に數日かかる事が通常で、中隊の炊事車は勿論、小行李も同行しないため、いちいち炊事の手間をかけなくとも行動しながら必要な榮養が摂れる、保存の利く扱い易い小型の個人携行の食糧が必要となります。主食も副食も一纏めに混合せて壓縮し罐詰にしたもので、罐切が無くても簡單に開けられ、其の儘食べられますし、鍋に他の材料と一緒にして温めてもよいと云うものです。ちょうど固いパテのようで、濃いめの味附をしてあり食べではあります。
敵の狙撃兵の彈丸が飛んでくる塹壕や、通常の食事など喉を通らない興奮の渦巻く戰闘状態の中では、壓縮携帯口糧を更に簡易にした「戰闘口糧」も糧秣厰に於いて研究中です。いろんな種類の試作品が作られていますが、兵隊に好まれるものは大抵が片手で簡單に何時でも摘める甘味品です。なかでもチョコレート・バーが有名で、砂糖・木の實・榮養劑・粉末牛乳などを混合わせ、ポケットに入る程度の長さを銀紙に包んだものです。デザート用に果實を飴で固めたフルーツ・バーもあります。主食用に最も多く配られるのが、大蒜と得体の知れない材料を固めたメインディッシュ・バーです。これは評判が良くなく、時々捨ててあるのを拾った鳥が咥えて飛んでいるのを見ます。偵察専務の兵士は獵師や樵が先祖傳来受け継いできた藥草と果實に刻んだ乾肉を混ぜ固めた塊を持って出動します。偵察行動では現地の生水を飲用せざるを得ないため、大小の浄水錠は必需品です。また軆力維持のため食塩劑が配給されますが、獵兵はその代わりに傳統的に岩塩の缺片を携帯しています。隠密行動の時は火を使わず、罐詰や包装紙はなるべく使わず、歩きながらでも食べられる携帯口糧を飯盒や私物の袋に入れていきます。火や煙、空罐、紙などは敵に發見されると隠密行動にならないからです。
飛行兵は観測氣球隊の昔から魔法瓶に詰めた茶・珈琲とスープに大きな焼きサンドイッチを携帯して航空機に搭乗します。その他に各人の好みによる菓子や果物を持ち込みます。機上での炊事はできないからです。遭難者用の救命艇や投下品には必ず壓縮口糧と火酒が備え付けてあります。
野戰病院や繃蔕所は患者用の加給壓縮携帯口糧を備えています。葡萄糖や粉末果汁、藥用葡萄酒、營養食などです。
突然に増加する捕虜や難民のためには、手間をかけずに簡易な給食ができるように、壓縮携帯口糧を配ります。

【罐詰の種類】
このように携帯口糧の需要は多く、最前線では急な陣地變換が就中なので、中隊の炊事車が常に温食を食事時間に配ることは難しいのです。いきおい兵士は携帯口糧で三度の食事を摂ることが多くなり、これが餘り長く續くと脱走者が頻發するようになります。その防止のため、糧秣厰では罐詰の種類を増やしたり加給品を工夫したりしています。罐詰は主に牛や鳥の肉類が多かったのですが、郷土料理や珍しい外國料理と云ったメニューが増えてきました。しかし量産する際には設備に限りがあるので、あまり種類を増やせないのが悩みの種です。人氣のあるものは、「ごった煮」(いつも食べている家庭の味)「パスタや米・麥の粥」(東北部での常食)「果物」(パイナップル・マンゴーなど海外領土で採れた珍しいもの、多種類を組合せたパーラー風、寒天ゼリー、ジャムなどがある)「魚」(海岸部の住民の常食)「野菜の酢漬」(營養のバランスを取るため)「パテ」(練物、内容は酪乳や獸肉などがある)と云ったところです。これなどは週に1回配給になればよい方です。大抵は牛肉の塩煮の罐詰が来る日も来る日も續きます。

【補給】
とうとう炊事車に載せている食糧が無くなると、部隊本部の大行李(trayneg de regiment aw batalion)の輜重車がやってきて、食材と麺麭を補充します(携帯口糧は戰闘時にしか使用しないので、彈藥など戰闘に直接必要な品を運搬する小行李に積載してあります)。大行李は、後方の糧秣集積處(provizumey)から食糧を受取ってきます。
糧秣集積處は、旅團や支隊、聯隊の陣營掛将校(Quarter Master)が戰況に合わせて前線補給路の要所に設置します。集積處には輜重兵大隊の糧食縦列(kolon por provizum de korps)が師團の野戰倉庫からせっせと食糧を運搬してきます。
この前線補給の中心たる野戰倉庫は、「兵站終點」(ここで前線が終わって「兵站管區」となる地點)にある兵站倉庫から糧秣を受取っています。「兵站線路」(線路とは鐵道線路ではなく、交通路のことを云い、道路・航路・鐡道を含む)は、この兵站終點から「兵站主地」に伸びており、そこには大規模な「兵站倉庫」があり、食糧が備蓄されています。兵站倉庫はこのように兵站管區の要所に必要な數だけ配置されており、糧食の集積・配給を行います。周辺の占領地から作物を購入し、また時には自分で栽培・採集・狩獵を行うこともあります。兵站主地には倉庫の他に糧食加工機關があり、野戰製麺麭廠(kampar fak de panver)が、窯を据え小麥粉を捏ねて麺麭を焼き、野戰屠獸廠(kampar fak de buch)が牛や豚を屠殺して精肉し、角切肉はおろか腸詰や薫製まで造っています。
兵站線路から枝別れした「兵站岐路」の終點にも、「兵站司令部支部」と「兵站倉庫」があり、野戰製麺麭廠と野戰屠獸廠の分遣隊が仕事をしており、規模は小さいながら兵站終點と同じ働きをします。
兵站終點の倉庫には兵站糧食縦列(kolon por provizum d'etap)の大型輜重車が兵站主地からせっせと兵站道路を通って食糧を運搬してきます。
兵站主地は「軍兵站監部」と「兵站守備兵力」の司令部がある補給の中心地です。そこには鐵道驛ないし船着場、飛行場があって、食糧が山積みされています。
兵站管區の最後方には集積主地が設けられ、はるばる占領地(占領地總督管區)を横断してやってきた軍用列車が忙しく到着しては、食糧をおろしていきます。
國境から出たところにある集積主地の「倉庫」には、内地から集められた食糧を山積みして、補給が途切れないように余裕を持たせてあります。上陸作戰の場合には、大きな港に位置しています。
内地にある軍留守司令部は、軍管區の交通要地にある兵站基地に「糧秣集積廠」を設け、内地から戰地に向けた食糧補給の窓口としています。
こうして長大な兵站線路の上を糧食は、要所に點在する兵站機關を經由して、はるばる最前線将兵の手元に届けられるのです。

【平時の炊事場】
兵營では、各中隊の炊事手と助手は、大隊炊事場(kuirey de batalion)で共同炊事をします。大隊ごとに炊事場を持っているので、3箇大隊ある聯隊ならば1號炊事場から3號炊事場まであります。聯隊によっては、各大隊合同炊事場を設ける場合もあります。騎兵聯隊などは、中隊數が少なく規模が小さいので、このくちです。大きな炊事場がひとつのみです。
炊事場では三等炊事長(kuir maystro 3a klas: 伍長相當)が親分で、食事傳票の整理と計算、献立や帳面つけ、納入業者とのやりとりは、炊事長付の大隊炊事手がやります(部隊ごとに駐屯地近くの食糧商人から直接買い入れる)。蒸気釜を使うので、餘った蒸氣で風呂も沸かします。炊事場の隣に必ず浴場(baney)があるのは、そのためです。炊事長は浴場の責任者でもあります。

【本部付のコック】
聯隊本部には、二等炊事長(kuir maystro 2a klas: 軍曹相當)がいて、將校集會所(oficir kulb)と下士集會所(suboficir kulb)の會食調理をします。聯隊附炊事手と炊事當番を使って、腕を振るいます。また大隊炊事場の面倒も見ます。各大隊の献立豫定をチェックし、食費の出納を計算します。

下士集會所の炊事風景 (調子に乗っていると集會所委員の准士官におこられます)

【シェフの待遇】
炊事手、炊事長は、みんな經理學校(lerney de intendant)(陸軍省經理局管轄)の衣糧術練習所(炊事下士卒教育と炊事實務研究をする)(seminarey de vestad k. kuirad)で特別に調理の訓練を受けたコックですが、特に腕の良い者は、こうして本部附となり、フルコースの調理を任されます。旅團司令部、師團司令部、軍司令部とも、炊事長と炊事手が附属しており、司令部の建物には必ず厨房(kuirey)があります。民間の料理人が徴兵されると、すぐに炊事手にさせられます。一流ホテルや有名レストランの料理人ともなると、司令部の間で争奪合戰が繰り廣げられ、昇進が早く、あっというまに上等炊事長(kuir maystr mayora: 特務曹長相當)になってしまいます。シェフ・クラスになると、准主計(4a intendant: 准尉相当)や主計補(3a intendant: 少尉補相当)として、經理學校の衣糧術練習所教官になります。

【會食】
將校集會所、下士集會所、司令部食堂で出される食事は、將校下士が自分で會費を出します。將校の晝食は、毎日、將校集會所でフルコースの會食です。聯隊長以下、全員が出席します。下士の晝食は下士集會所でとります。必要に應じて自分の中隊の下士室や勤務先の事務室でも食べます。

【食事傳票】
營外居住の將校下士官(二等給曹長以上)は、兵食は食べない原則です。食事代も給料に含まれているからです。したがって兵食を食べる將校下士官は、中隊給養掛曹長が傳票を起こして部隊經理室に廻し、當人の給料から差引きます。三等給以下の曹長、軍曹・伍長・兵卒は、食事代は給料に含まれておらず、現物給與となっていますから、もちろん無料です。その食事代のぶんだけ給料が安くなっています。野戰部隊になると、將校下士官とも全員が同じ炊事車で兵食をとります。この場合も將校下士官(二等給の曹長以上)は、ちゃんと給料から食事代が差引かれます。中隊給養掛曹長は炊事長に食事傳票の冩を廻し、人數分の食事を用意するようにします。この事務は非常に煩雑で、給養掛の助手が一日中かかりきりとなる程です。

變梃な風景

【食事訓練】
週に一度は、營庭に炊事車を曳きだして、中隊ごとに野戰同様の食事配給訓練(kuirvagon ekzercad)が行われます。このときは聯隊長以下將校も炊事車から兵食を食べます。部隊ごとに曜日が定めてあって、雨が降ろうと、風が吹こうと、部隊全員が立ったまま飯盒から兵食を掻き込みます。乗馬部隊は馬に乗ったまま、機械化部隊は乗車したまま、食事をします。
演習に出た時は、野外自炊訓練(飯盒炊爨)もします。分隊ごとに、ごった煮をつくったり、夜間演習では滅多に開けられない携帯口糧を食べたりして樂しみます。

【自給自足】
鳥もかよわぬ僻地の孤立した守備隊は、食糧事情がよくありません。野菜果實は高値で、中隊予算では到底あがなえないので、砦の中に菜園を造り、實の生る樹を植えて、自給自足します。ミルクや肉・卵をとるために、牛や豚、山羊、鶏を飼います。家畜が役に立たなくなると屠殺して食べてしまい、脂から石鹸を作り、皮はなめして被服の補強に使います。配給される麺麭も、氣候が悪いので、黴で緑色になったり、乾燥して煉瓦みたいに堅くなり歯が缺けたりするので、揚げ麺麭にしたり、粉に砕いて煮て粥にしたり、工夫します。北方の守備隊では、狩獵が行われます。南洋守備隊では、椰子の實のジュースやバナナ・フライ、得体の知れない魚ばかり食べさせられます。

【炊事手の腕】
兵隊の最大の樂しみのひとつは、食事です。こうした部隊の炊事手は、もし腕がひどく悪いと、樂しみをぶちこわされた兵隊どもに袋叩きになる危険があって、命がけです。そのため階級を高くしてありますが、闇夜に覆面の多人數で襲撃されたりしてあまり効き目は無いようです。


定量

★兵隊の一日の食事量(兵食定量)は、陸軍省經理局が決めます。現在は、次のようになっています。(外國軍隊は、この定量にそれぞれお國柄を見せています。露西亜軍はウオトカが入っています。佛蘭西軍は必ず葡萄酒、獨逸軍は馬鈴薯、英軍は紅茶です。また植民地を多く持つ外国軍隊では、土民兵や現地雇の軍夫には、別に定量を定めています。例えば佛蘭西軍の安南兵の主食には麺麭ではなく米、肉ではなく干魚を支給します。)
また加給品として、たまに菓子や酒、煙草、地方特産品が配給され、これは聯隊經理に餘裕ができた時や、廉ある時(何かの記念日や式典開催日など)に出てきます。

兵食定量

黒麺麭  750g(3銭9厘)
牛肉   375g(2銭2厘)
豆    250g(2銭2厘)或いは 馬鈴薯 1,500g(2銭8厘)
野菜   125g(1厘)

塩    25g(0.04厘)
油    1g (0.3厘)
砂糖   50g (3厘)

茶または珈琲  28g(1銭8厘)
果實   108g(2厘)或いは 酢 10g(2厘)
紙巻煙草 1本(1.8厘)

金額計 10銭 9厘(端数切捨)

★味は兵卒が故郷の家で食べていたものと大差ありません。ただ牛肉と云っても塩漬か燻製で、それが豆・野菜と一緒くたにして、ごった煮になっています。どれも保存の利く材料ばかりで、野菜はなるべく玉葱・大蒜や馬鈴薯を使い、麺麭も堅い重焼で新鮮なものはありません。これを主に鹽・油・砂糖・酢で味付します。炊事の腕が悪いと味付がうまくいかず、兵隊は不満を訴えます。献立は毎日變りなく、兵食と云えば豆と牛肉と硬い黒麺麭と決まっています。氣の利いた炊事長にあたると、たまにサラダやカレー、パスタなど珍しいものが出ます。
果實はたいてい酢で代用します。たまたま果實が特産となっている駐屯地では、市場に出せない落ちた實や疵ものを安く買い込んできて、兵隊に食べさせます。
なま水は衛生を考えて(食當たりしないように)代りに熱い茶を飲ませますが、水がアルカリ性の所では中和する目的で薄い珈琲になります。煙草も一日一本呉れますが、すぐ短くなる兵隊用の安煙草ではなく、葉巻に近い吸いでのある太いのが付いています。これに火をつけたり消したりして、一日3回の食事の後や休憩に吸います。ヘービースモーカーは、それでは足りないので豫め酒保で自分の財布から好みの銘柄を買いためて、携行します。安給料の兵卒は安物煙草しか買えませんが、下士以上は給料が多少あがるので、もう少しましな煙草が買えます。将校になると金の吸い口付の上等な輸入ものを常用する人もいます。また下士や古参兵はパイプや噛煙草を愛用することが多く、将校には氣取って嗅煙草を摘む人もあります。
酒は酒保で付き出しと一緒に、麥酒、火酒、葡萄酒と取揃えてあります。兵卒用(酒保の建物の1階にある)と下士用(2階にあり、下士集會所と呼ぶ)に分かれており、准士官・将校は別に将校集會所(獨立した瀟洒な建物で食堂・賣店・娯樂室・宿泊室を備える倶樂部)を持っています。酒保は地方商人が經營しており、各中隊から酒保當番が出て、窓口で注文をとります。菓子やジャム、ラムネ、間食夜食用のパスタ、砂糖麺麭などもあります。そのほか繪葉書、手拭、歯磨道具、髭剃道具、石鹸、下着など雑貨を置いており、なかなか繁盛しています。
将校集會所は聯隊将校團の經營で、高級酒保と云った趣で、聯隊長が将校のなかから酒保委員を任命し、資金を各将校・准士官から會費として集めます。兵科以外の各部士官や准士官も會員となっています。毎日の晝食は聯隊の将校准士官が集まって會食します。兵食(下士卒用)と比べて格段に程度の良い食事が出ます。聯隊の二等炊事長がここに厨房を持っており、會食の調理をします。柔らかい小麥の白麺麭や手の込んだ前菜、菓子など厨房で出来ないものは、地方商人から取寄せます。宿泊室は應召の将校や来客が滞在するホテルのようなもので、泊込みの週番将校なども利用できます。娯樂室は撞球臺、カルタ臺、ピアノなどが設けてあり、喫煙・飲酒用のバーもあります。酒類は酒蔵番を雇って管理させます。掃除夫やバーテンダー、撞球の點取りや樂師などは酒保委員が必要に應じて軍属を雇入れます。これに要する支出は全て将校の會費で賄います。そのため将校はつけで飲食ができますが、會食以外の利用には傳票が聯隊經理室に廻され給料から天引きとなり首が廻らなくなる将校が多くなります。聯隊によって會費は違い、食事ひとつをとっても都會の派手な駐屯地では贅澤をするので高く、邊境の鳥も通わぬ處では兵食と大差ない内容なので安く濟みます。

★軍隊食を試食した感想
炊事場で出来立ての兵食を試してみました。
まず「黒麺麭」は庶民が食べているものと同じで、パン種と小麥は使わず大麥やライ麥に駐屯地一帯の特産雑穀、薯、玉蜀黍などを混ぜてギウと壓縮したもので、小型でも重く厚切り3枚も食べれば満腹になります。大變に堅いので、ゆっくり何度も噛まないと喉を通りません。これが一日に1斤配給されます。聯隊炊事場では1週間分を纏めて焼くので週の始まりは食べやすいのが、週末には顎が疲れるほど硬くなります。一口毎に腹にズシンと溜る感じがします。馴れた兵隊さんは茶やごった煮の汁に浸して少しでも柔らかくしてから食べます。
副食として「ごった煮」がでます。これは牛肉と豆、野菜を塩・砂糖・油・酢で味付けし蒸氣窯で一氣に炊き上げたものです。一人あたり大しゃもじ山盛り一杯くらいの分量ですが、食べでがあり、牛肉と豆には素朴な塩味が浸み込んでいて、腹が減っている時には美味です。野菜には主に玉ねぎ・大蒜と云った根菜が使われます。
茶は大カップに一杯飲めますが、渋くて濃い味です。円筒形の大鍋に茶の葉をぶちこんで、熱湯でグツグツ煮込んだ代物です。黒い色をしていて、カップの底が見えないほどです。炊事場では當番が茶沸し鍋を掻き混ぜながら、鍋の底には夜中に茶を飲みに出てきて溺れた鼠が沈んでいると云って新兵を脅かします。
珈琲は水質が悪い駐屯地で茶の代わりに出ます。薄くて湯にただ色を付けただけのような代物です。黒豆を煎じた代用品そっくりの味です。これを飲むと不思議に喉が渇かなくなります。
定量の規程には「果實」がありますが、これは酢で代用し、その酢はごった煮の味付けに使ってしまいます。たまに林檎の小片などが配給されます。
配給の煙草を食後に吸ってみましたが、苦い濃厚な味で、黄色い煙が出て、空き腹の時に呑むと、さぞや頭がクラクラするだろうと思いました。
加給品として火酒や甘味品がでることがあります。火酒は、その名の通り火がつくほど酒精度が高く、呑む時は一氣に喉に流し込むようにしないと、口の中が焼けてしまいます。
兵食は重勞働に從事する為には十分なもので、味も素朴です。腹が減っている時には美味と云う感じです。

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